進化系ギグワークの知恵 キャリア形成は夢か

本社コメンテーター 村山恵一

登録者が160万人に達した単発アルバイトのマッチング会社タイミー(東京・豊島)。2017年設立で、都合のいい時間に働くギグワークを日本に広めてきた。ネットで迅速に労働力を確保したい企業1万3000社が使う。

どんな分野で登録者は働いているのだろうか。例えば19年10月は飲食が圧倒的に多かったが、新型コロナウイルスの感染が拡大した1年後はネット通販の物流など軽作業の比率が大幅に高まった。

実数は非公開だが、20年10月に働いた人の数は19年10月の3倍だという。社会が求めるところに労働力を送るしくみといえる。

一方でギグワーカーは保護されにくく、「職の安全」が揺らぐとの懸念がついてまわる。

象徴は配車大手、米ウーバーテクノロジーズだ。運転手を従業員ではなく、業務を委託する個人事業主と扱う。身軽な経営で急成長したが、事業モデルについては米国でも賛否が分かれる。日本ではウーバーイーツの料理配達員が待遇改善を求め労組を結成した。

特色である機敏性・柔軟性を生かしつつ、職の安全を守れないか。タイミーは「雇用型ギグワーク」を提唱し、注力し出した。

ギグワークは業務委託契約が一般的で、雇用に関する保護がおよばない。タイミーは企業と働き手が雇用契約を結び、最低賃金や割増賃金、労災保険などの対象になるよう切り替えた。契約はアプリで完結し、勤怠管理や給与の計算、振り込みまで自動で進む。いま案件の95%が雇用型だ。

指揮命令できる雇用型の方がギグ化しやすいと企業が考える仕事は多い。倉庫や飲食店での作業などだ。万が一、ケガをした場合も雇い主として責任をとれる体制なら企業の評判を傷つけない。

タイミーの小川嶺代表取締役はギグワーカー向けの保険や融資制度の開発をめざす。仕事ぶりを長期で評価し福利厚生も提供するつもりだ。そのとき限りの調整弁的な労働ではなく、キャリア形成に役立つレベルまで進化できれば、市民権の獲得に近づく。

あるワーカーは1年半で100回以上、集中的に飲食のバイトをし、経験を生かしてカフェ開業にこぎ着けた。スキル習得や訓練の場としてのギグだ。こういう例が増えるかどうかも注目点になる。

春の労使交渉の季節を迎えている。賃金のあり方やジョブ型導入が主なテーマだ。ただ、雇用の4割近くは「非正規」。副業を含めフリーランス人口が500万人程度いるとの推計もある。

デジタル化で職の姿が一段と多様化していく素地がある。社会全体で適材適所を考えるなら、従来と違うアプローチがいる。

19年設立のSeibii(セイビー、東京・港)は個人がネットで予約し、自宅でオイル交換やドライブレコーダーの取り付けといった基本的な車の整備・修理を受けられるサービスを手がける。こうした出張サービスは米英で市場が育ち始め、新興企業が台頭して自動車大手も出資する。

Seibiiでは自動車整備士が出張サービスでスキルを生かす
Seibiiでは自動車整備士が出張サービスでスキルを生かす

セイビーのサービスを担うのは国家資格をもつ整備士だ。オンラインで登録し、いつどのくらい働くか自由に決められる。自分の能力や好みに合う仕事を選べ、これまでに約170人が登録した。

佐川悠代表取締役によれば、整備士は普通、整備工場で働くが報酬や仕事への満足度が低く、若手・中堅の離職が目立つ。せっかくの資格を眠らせる人が少なくなく、人手不足を招いている。

セイビーは業務を効率化して時給3000円以上を保証し、整備士が顧客の声をアプリで確認できるようにした。いい仕事をすれば感謝され、工場にいては実感しにくいやりがいを生む。

セイビーと整備士の関係は業務委託だが、やはりキャリア支援を重視する。専門学校や洗車・板金事業者と組んで整備士の技量を高めたり、経営者としての独立を後押ししたりする計画を練る。

働く人自身が成長できる――。シンプルだが、それがテクノロジーを使う新たな働き方を社会に根づかせるのに重要だ。

イラスト制作などのスタートアップ企業フーモア(東京・中央)。20年は企業からの漫画の注文が前年比2倍の400社に膨らんだ。娯楽分野に限らない。右脳と左脳の両方を刺激して記憶に残りやすいと、パイロットの安全研修や経営方針の社内共有などに漫画を利用する例が増えている。

芝辻幹也社長は1万2000人いる登録クリエーターが強みと考える。どんな作風が得意かデータベースで管理し、注文に応じて制作を依頼する。同社の調べでは「5~10年前に比べ、絵を描いて食べていきやすい」と感じるクリエーターは56%におよぶ。一握りの人だけでなく、大勢のクリエーターにチャンスが巡る。

街中を自転車で走るウーバーイーツの配達員(東京・新宿)
街中を自転車で走るウーバーイーツの配達員(東京・新宿)

米ハーバード・ビジネス・レビュー誌によると、研究開発やマーケティングなど高度なスキルをもつギグワーカーを束ねる人材プラットフォームが急増し「フォーチュン500」の有力企業はほぼ例外なく利用する。9割の経営幹部が将来の競争力に直結するとみる。これらの労働力と、社内の労働力の最適バランスや連携の仕方が戦略的な課題に浮上している。

デジタルを土台にした働き方は発展途上だ。個人を守るセーフティーネットの拡充など国の役割はあるが、革新が使命の産業界こそ知恵を問われる。デジタルだから可能になる人材の活用、才能の開花がある。生かさない手はない。

[日経電子版 2021年01月30日 掲載]

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