
新型コロナウイルスの感染拡大で働く環境が大きく変わるなか、転職や副業、勤め先での異動希望といった形で新たな活躍の場を求める人もいるだろう。挑戦に備えて自分の強みをどう整理・分析し、相手に伝えればいいのか。専門家にコツを取材した。
動き出す前にまずは自分の経験やスキルなどを整理しておきたい。人材サービス大手エン・ジャパンの藤村諭史さんはやりたいこと(will)、できること(can)、すべきこと(must)の3つに分け、書き出すのを勧める。自分の現状を「棚卸し」するのが出発点になる。

パーソル総合研究所の小林祐児上席主任研究員は「自分が属する組織の外にいる人と今の仕事や将来の展望について積極的に話すといい」と助言する。自分の強みだと思うスキルがあまり評価されなかったり、特別ではないと感じていた経験が実は重宝されたりするかもしれない。外の目に自分がどう映るか客観視すると発見があるという。ただ組織の外の相手にどこまで話していいか、情報の取り扱いには気を付ける必要がある。
自分のキャリア、ストーリーにして伝達
目標を定めていざ活動となると、転職時の職務経歴書のように自分をアピールする文書が必要な場面が出てくる。棚卸しが生かせるタイミングだ。小林さんは「自分のキャリアをひとつのストーリーとして組み立てるよう意識するといい」と話す。どんな経験を積み、そこからどういったスキルを得たか。それを生かして今後何をしたいのか。経験に基づく問題意識、得たスキル、やりたいことが結びついていると、説得力が増す。
キャリアの棚卸しをするなかで、新たな仕事に挑戦したいと思ったきっかけの出会いや出来事、苦労話など、具体的なエピソードも思い付くだろう。ストーリーの肉付けに役立つし、挑戦の動機を見つめ直す機会にもなる。
最近はインターネットを通じてつながった相手に自らの知識や技術を提供する「スキルシェア」サービスなどを活用した副業も増えてきた。仕事の相手と結びつく糸口になるのが公開するプロフィル。マイナビ(東京・千代田)の副業仲介サービス「スキイキ」で責任者を務める光川尚輝さんによると、仕事での実績などを可能な範囲でリストにするといいという。
仕事の実績、リストにして相手に示す
プロフィルは副業人材を探す側の重要な判断材料。できることが簡潔に書かれ、それを裏付ける実績もあると目に留まりやすいという。さらにどういった状況でどんな手段、こだわりのもと達成したかまで書くと、相手が一緒に仕事をするイメージを持ちやすい。デザイナーなら手掛けた作品を並べるのもいい。
自分の強みを伝える手段は文書だけではない。転職や副業、異動先との面接・面談も大きなウエートを占める。既に相手が職務経歴書などに目を通しているとすれば、書ききれなかった点、プラスアルファを意識する必要がある。
人柄は話しぶりからも伝わるもの。やはり第一印象は大切で、エン・ジャパンの藤村さんは「最初の2~3分で印象が決まることが多い」と指摘する。文書に収まらなかったエピソードを紹介しつつ意欲を伝える手もある。「この人に任せてみたい」「一緒に働きたい」と思わせることができるかがポイントだ。
コロナ禍でオンライン面接も目立つようになった。エン・ジャパンの藤村さんによると、対面の時に比べて情報が伝わりにくい。うなずきなど相手への反応を意識し、感情豊かに話すとよいという。自分の話しぶりを動画に撮影し、見返してみると相手にどう伝わるか客観的にみる練習にもなる。
相手に伝えたい強み、絞り込んで
ビジネスパーソンが新たな仕事に挑戦しようと思えば、面接に臨む機会が多くあるはずだ。自分の強みや意欲をどう伝えれば相手の印象に残るのだろうか。プレゼンテーションやスピーチの方法などを指南しているグローコム(東京・港)社長の岡本純子さんに注意点を聞いた。
――印象に残るよう話す人はどんな特徴がありますか。
「自分をアピールしたいときはどうしてもいいところを羅列したくなる。しかし印象に残る人は相手に伝える自分の強みを絞り込んでいる。それも『実行力がある』『きちょうめんだ』などの一言では終わらせない。その強みが発揮された経験を挙げ、聞き手がその情景を思い浮かべられるよう具体的に描写する」
――どう話せば強みが伝わりやすいでしょうか。
「最初に『自分はこういう人間です』と短い言葉でまとめて伝える癖を付けることから始めるといい。10~20文字程度で、聞き手が注目してくれるようなフレーズを考えてみる。自分に見出しを付けるようなイメージだ。自分のスキルや実績を強調するだけではなく、それが相手にとっていかに役に立つものかという視点から話すのを忘れてはいけない。相手にメリットのある人材と認識してもらえるかを基準にして、自分が伝える強みも選ぶといい」
――面接にはどういう心構えで臨むべきでしょうか。
「あまりへりくだる必要はない。控えめな態度をし過ぎると、自信がない人と誤解されかねない。礼儀を欠かない程度に堂々と話せばいい。相手とは互いに選び、選ばれる関係。そういう意味では対等だという意識で臨めばいい。実際話すとき大事なのは相手に興味を持つこと。積極的に質問し、関心を表に出すようにしよう。そうする方が相手の記憶にも残りやすくなる」
――言葉遣いなどで気を付けるべき点はありますか。
「語尾に『思う』などと付けるのは自信のない印象を持たれるかもしれない。できるだけ『です』『ます』と言い切るようにしたい。語尾が同じ表現を続けたり、抑揚のない話し方をしたりするよりはメリハリを付けた方が印象に残りやすい。話の間を埋める『あのー』や『えー』といった言葉も減らしたいもの。お勧めなのは自分の話している姿を録画して見てみること。どう話すと印象に残るか、改善点が見つかると思う」
(生活情報部 清水玲男)
[日経電子版 2021年02月02日 掲載]