日本的雇用崩すジョブ型 経団連が導入促す

人事・組織の見直し不可欠

経団連は春季労使交渉の企業向け指針で、「ジョブ型」雇用制度の積極的な導入を呼びかけた。職務ごとに最適な人材を充てるこの制度は企業の競争力強化策として関心が高いが、従来の人事や組織を根本から見直す必要があり、安易な導入は禁物だ。どうすればジョブ型雇用をうまく実践できるだろうか。

ポストを公募

ジョブ型制度は社内各ポストの職務内容を明確にし、その能力を持った人材を起用する。入社年次にとらわれず、有能な社員ほど難易度が高く待遇も良いポストに就く。年功賃金や順送り人事を否定した制度だ。

肝は、社員間の競争を活発にする点にある。専門性が必要で報酬も高い職務に就くには、自らの能力を向上させなければならない。ポスト獲得競争を通じて個々人のレベルを引き上げることがジョブ型制度の眼目だ。

高い賃金に見合った成果を出せていない中高年の人件費抑制策――ジョブ型雇用をそうとらえるだけでは、本質を見誤る。組織・人事コンサルティング大手マーサージャパンの白井正人取締役は、「企業は社員の自律的なキャリア形成を促す必要がある」と話す。

就きたいポストに立候補できなければ、自らの能力を伸ばす意欲も高まりにくい。キャリアアップ支援策のひとつはポストの公募制だ。

2020年10月、全管理職約5千人にジョブ型の人事制度を導入した三菱ケミカルは、まず約200のポストの人事を社内公募で決めることにした。今後、公募対象のポストを広げる。

デジタル化とグローバル化が進み、コロナ禍は収束が見通せない。企業は環境変化に合わせ、経営戦略や事業モデルを変えていく必要がある。管理職も専門性やマネジメント能力を高め続けなければならず、公募制はそれを後押しする。

公募制は会社主導の人事異動の軌道修正を迫る。社員が雇用保障と引き換えに異動や転勤の命令に従ってきた日本型雇用の転機といえる。

他部署の仕事を経験できる「社内副業」も、社員のキャリア形成を支援する仕掛けになる。

ジョブ型人事制度を21年から本格導入するKDDIは、就業時間の約2割を目安に所属部署以外の業務ができる社内副業制度を設けた。持ち場以外の仕事の体験は、いい刺激になる。

日本企業のジョブ型導入は現在、管理職が中心。経団連は新卒者も対象とするよう求めている。KDDIはその例のひとつだ。21年4月に入社する新卒者約270人の4割はジョブ型採用1期生。データサイエンス、法務など、配属する業務を確約して採用した。

「若い社員ほど新たな挑戦がしやすく、異分野へ仕事の幅を広げやすい。ジョブ型は若手に導入してこそ意味がある」と白井氏は言う。

採用権限移す

権限移譲もジョブ型雇用では求められる。ジョブ型が定着した欧米企業では、各部署のリーダーの重要な役割は、組織の目標達成に貢献できる人材をそろえた「ベストチーム」をつくることだ。人材の採用権限はそれぞれの部署にある。

ジョブ型制度を管理職以外にも広げる計画の富士通は、採用権限を順次、各事業部門に移す。事業戦略をもとに、新卒・中途とも通年で各部門が採用する。人事部が一括して調達し、社内に割り振る日本型の採用も転換期を迎えている。

ジョブ型雇用は本来、社外からも多様な人材を集め、環境変化への対応力を高める制度だ。日立製作所がジョブ型制度の導入を急ぐのも、デジタル化が急速ななかで企業が成長するには人材の流動性の向上が不可欠だからだ。技術革新やグローバル競争の最前線にいる企業ほど、ジョブ型雇用は適している。

社内での実力主義の徹底が狙いなら、あえて労力の要るジョブ型を導入しなくても道はある。「目標管理制度を機能させ、仕事内容と賃金をきっちり連動させれば、課題を解決できる企業が多いのではないか」。リクルートワークス研究所の中村天江主任研究員は指摘する。目的によって採るべき雇用制度は異なる。何のための改革か、明確にすることが先決だ。

(編集委員 水野裕司)

[日経電子版 2021年01月26日 掲載]

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