コロナ、賃金雇用改革促す 春季交渉

人材シェア・DX技能向上… 働き方と成長の両立議論

新型コロナウイルス感染拡大下での春季労使交渉が始まる。産業界のまとめ役である経団連は、賃上げは企業ごとの判断に委ねる。コロナはデジタル経済を加速させ、新しい働き方の普及も促す。雇用を守りつつ、「成長」の仕組みをつくる新たな労使の議論が求められている。

コロナが業績を直撃している外食や旅行業界などで雇用不安が高まっている。雇用を維持する手段として、休業を迫られる従業員を余力のある産業が受け入れる雇用シェアリングがコロナ下で注目されてきた。

ただ、実情は日本航空(JAL)が家電量販店などに数百人規模を出向させてはいるが、活用は広がりにかける。労働組合が企業別に組織されている日本では、不況期でも個別企業内の雇用維持に関心が集中しがちだ。個別企業ごとの雇用シェアリングは限界がある。

参考になるのがスウェーデンの取り組みだ。スウェーデンは労使が協力して、業種の枠組みを超えた転職支援を行っている。主要企業が共同出資で設立した組織が退職者に再就職のためのコンサルを提供する。

この仕組みが成長産業への労働移動を促し、音楽配信大手のスポティファイ・テクノロジーなどの先端企業の勃興につながった。未曽有のコロナ危機を克服するため、日本でも労使が「失業なき労働移動」の議論を始めるタイミングにある。

19日の経団連の「経営労働政策特別委員会報告」の発表に先立ち、連合は20年12月、ベア2%程度、定昇と合わせて4%の賃上げを掲げた。しかし、コロナの痛みが大きい外食などの業種にとっては定昇維持も困難だ。その一方で好業績の企業もある。

20年10月~21年3月期の業績動向を見ると、自動車や機械、鉄鋼など主力製造業が急回復する見通しだ。好調組は思い切った賃上げに踏み切ることができる。そうした企業は雇用も増やし、次の成長につなげる攻めの賃金雇用策が重要になる。

経済協力開発機構(OECD)の統計では、1995~2019年に日本の平均賃金は約4%下がった。この間に米国や英国は2倍に増え、ドイツは6割上昇した。日本の賃金は先進国で最低だ。賃下げ傾向に戻れば、消費意欲をさまし企業業績が悪化。さらに賃下げという悪循環に陥りかねない。

賃上げ余力のある好業績企業には業務のDX(デジタル化)で先行している企業が多い。21年2月期に34期連続営業最高益を更新する見通しのニトリホールディングスはネット通販がけん引している。そうした企業に続くにもデジタル化に対応するスキル向上が働く人には欠かせない。

日本企業では職業教育は新入社員時代の職場内訓練(OJT)に偏る。年々早まる産業の新陳代謝にキャッチアップできない。このことが労働移動を抑制し、日本の生産性を低下させている側面がある。生涯継続的なスキル向上につながる仕組み作りが課題になる。

日本は職務内容を限定せず幅広い業務を経験させる「メンバーシップ型雇用」が一般的なため、なかなか専門性が高まらない。プロフェッショナル型のキャリア形成を促すため欧米流の「ジョブ型雇用」の拡大も不可欠だ。富士通などがジョブ型雇用の導入を拡大しているが、評価や昇給の仕組みなど、人材の成長につながる制度の詳細を詰める必要がある。

コロナ禍を変革の契機として成長の青写真を描けるか。労使双方に重い責任が課されている。

(雇用エディター 松井基一)

[日経電子版 2021年01月20日 掲載]

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