
年末年始の休みを経て、転職への決意を新たにした人もいるだろう。在宅勤務の拡大やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展など、ビジネスパーソンを取り巻く環境が激変するなか、2021年の転職市場で求められるのはどういった人材か。パソナの岩下純子常務執行役員に話を聞いた。
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――2020年は新型コロナウイルスの影響で転職市場も大きな影響を受けました。21年、企業の転職採用ニーズはどうなりますか。
「昨年春の緊急事態宣言の時は新規求人件数が前年比6割程度まで低下しました。在宅ワークの拡大で採用活動自体も滞り、書類選考の通過率が大幅に下がりました。育成にコストや時間がかかる若手のポテンシャル採用が大きく落ち込んだほか、事務や営業の求人も低迷しました。その後、企業の採用ニーズは緩やかに回復し、20年12月末時点で前年比8割の水準までようやく戻ってきたというところです」
「ただ、企業側は依然として採用への慎重姿勢を崩していません。経営トップの人材投資に対するシビアな姿勢から、最終面接で見送りになるケースが増えています。飲食、旅行などのサービス業の回復も見込めず、今年の中途採用の求人件数は昨年末の水準、全盛期の8割程度で推移するのではないでしょうか。金融、ヘルスケア、製造業(5G、中国関連)などの業界を中心に即戦力を中途で採用するニーズが堅調な一方、ポテンシャル採用は今年も低水準で推移しそうです」
「景気の先行きが見通せない現状で、すぐに活躍が見込める即戦力人材に絞る傾向がより顕著になっていくと思います。欧米などでは、以前から中途といえば即戦力採用を指していましたが、今後は日本でも同じようになり、特に人材紹介においては『ポテンシャル採用』という枠が大幅に減少していくと思います」
「今回の緊急事態宣言は、企業の採用活動にそれほど大きな影響が及ばないと考えています。既にリモートでの採用活動が定着しており、景気についても昨年の緊急事態宣言のときほどは先行き不透明感が高まっているわけではないからです。ただ、飲食サービス業はさらなる業績悪化の可能性もあり、採用抑制が進むかもしれません」
――求職者側の動きは。
「昨年来、働き方やキャリアの価値観を見直す機運が生まれ、転職希望者も増えたように思われがちですが、実際は経済の停滞から転職に慎重になる人が多く、自社のコロナへの対応(在宅勤務を許可しない、など)に不安を感じて転職する人はそこまで増えなかった印象です。在宅勤務に切り替わったときに転職活動を始めたものの、実際に求人案件を調べていくうち、年収やこれまでの経験が生かせるかといった、自身がこだわる条件に合った求人が見つからず転職を諦める人が少なくありませんでした。また、35歳以上のミドル層は現在の会社から強く慰留されるケースが目立ちました」
「今年は経済が回復してくれば、昨年、様子見していた人、特に30代後半以上の動きが活発になるのではないかと思っています。コロナの打撃が長期化している業界でも転職希望者が一段と増えそうです。一方、若手は条件の良い求人案件がなかなか見付からず、現職にとどまるケースが多くなるでしょう」
リモート環境でも成果出す能力が必須
――21年の転職市場で求められている人材の特徴は?
「キーワードとしては3つあり、DX、新規事業開発、即戦力です。DXについては、ネット企業だけでなくあらゆる業種においてDX化に取り組む企業が大幅に増えています。エンジニアなどの理系人材のみならず、エンジニアと、実際に業務を担当する人の間で『通訳』のような役割を果たす人材が不足しています。システムの知識を持ち、新しいテクノロジーに精通し、事業側のニーズとエンジニア側をうまく橋渡しできる人材です」

「新規事業に関しては、コスト削減のための業務改善や新サービスを開発する領域の人材がコロナ下でもニーズが増えています。ポテンシャル採用が大幅に減り、即戦力を厳選して採用する志向は今年も続くでしょう」
「人材の資質という面では、これまでとは違った2つの力が注目されているようです。第一に『巻きこみ力』です。最近、社内外において組織横断型で事業を推進したりサービスを開発したりする機会が劇的に増えています。こういった環境でのリーダーは、利害が必ずしも一致しない人に同じゴールを目指してもらうよう、上手に部下やパートナーを巻きこむ力があるかが問われます。特定の組織内で完結していた従来の管理職とは全く違った資質が求められるようになったと言えるでしょう」
「最近は転職の面接でも『いかに周りを巻き込んで成果を出したか』といった質問がよく聞かれるようになりました。前例がない業務において何が最適解かを判断し、周囲に協力してもらい達成する力が今、求められているのだと思います」
「もう一つは『リモート力』です。コロナ禍を機に、在宅勤務に突然シフトし、手探りで仕事に取り組んだ人が多いかと思いますが、リモートワークがある程度浸透した今年はリモート環境下でいかに差をつけるかが問われています。マネジメント層であれば、リモートでも部下の業務管理やアドバイスができる力、部下クラスであれば、自立して業務を遂行できる力を身につける必要があります」
「転職においてもリモート力が重要になっています。画面越しに自分自身のことや自分の実績を表現するためには、これまでの経験をしっかりと棚卸しして、自分の言葉で話すことが重要です。特に、企業の即戦力志向が強い今、求職者の経験が自分たちの掲げる要件と合致するかの見極めを非常に慎重に行っています。この厳格な審査に画面越しでパスするためには、自分の経験をしっかりと表現できるリモート力、アウトプット力が絶対条件になります」
「画面越しのコミュニケーションはちょっとした工夫で相手に与える印象が変わります。目線を上げて話すなど、少し気を配るだけで短期間に習得できることが多いので、転職を希望する人は普段から意識してみてほしいと思います」
(日経転職版・編集部 宮下奈緒子)

岩下純子 パソナ 常務執行役員
大学卒業後、大手通信会社へ入社。退職後、専業主婦、派遣社員を経て、2003年パソナキャリア大阪支社(現パソナ 人材紹介事業本部)へ入社。現在は同社人材紹介事業本部副本部長。
[NIKKEI STYLE キャリア 2021年01月16日 掲載]