次世代リーダーの転職学

7割弱は異業種に転職 変化対応力を磨き逆境に備える

エグゼクティブ層中心の転職エージェント 森本千賀子

異業種への転職では面接にいっそうのアピール力が求められる(写真はイメージ) =PIXTA
異業種への転職では面接にいっそうのアピール力が求められる(写真はイメージ) =PIXTA

今の会社に不満を抱いて転職を考えた場合、多くの人はまず「同業種・同職種」での転職先を探すのではないでしょうか。しかし、実のところ、異業種・異職種への「越境転職」を実現している人のほうが圧倒的に多いのです。

2020年1月、リクルートキャリアが転職エージェントサービス「リクルートエージェント」の約10年間(2009~18年度)の転職決定者を分析し、転職市場動向データを発表しました。そのデータによると、この10年の転職事例のうち、同業種内の転職は3割(32.6%)にとどまり、異業種への転職は7割弱(67.4%)に達しています。

異業種への転職は年々増加傾向で、さらに3人に1人が「異業種×異職種」への転職を果たしているのです。

興味深いデータがもう1つあります。人材サービス産業協議会が実施した「ホワイトカラーの中途採用実態調査(13年)」で、採用を行った企業に「採用時にもっと評価しておけばよかったこと」という質問を投げかけたところ、「人柄」「専門以外の遂行能力」と回答した人事担当者が多数見られました。

「人柄」というのは、性格タイプというより、考え方や価値観を指し、「会社のカルチャーにフィットするか」「会社が大切にしている理念や価値観に共感できるか」といった部分であると推測しています。「専門以外の遂行能力」とは、例えばコミュニケーション力・課題分析力・交渉力・調整力などの「ポータブルスキル(業種・職種問わず持ち運び可能なスキル)」と解釈できます。

この調査から7年経過していますが、昨今、採用担当者の意識は、より「理念・価値観」「ポータブルスキル」を重視する傾向が強くなっていると感じています。異業種・異職種からの「越境」も歓迎しているのです。

なぜなら、変化のスピードが加速しているから。そういえば、私が就職活動している頃に出会った企業には、今では業態が変わってしまったケースが数多く見られます。ビジネスモデルやビジネス手法がどんどん変わっていく中で、「業種経験」にこだわった採用はもはや意味をなさなくなっていると、多くの企業は気付いているのです。

新型コロナウイルス禍によって、変化はさらに加速しています。これまでリアルで提供していた商品やサービスをオンラインで提供するなど、ビジネススタイルが大きく変化しています。

こうしたパラダイムシフトを進めていくにあたり、「固定観念や先入観にしばられた既存社員だけでは新しい発想は生まれない。異業種から人材を迎えて異なる視点やノウハウを取り入れたい」――そう考える企業は多数あります。これからも「越境転職」は増えていくと予測できます。

「越境転職」の事例3ケース

私が最近お手伝いした「越境転職」の事例をご紹介しましょう。

・福祉業界からリゾート業界へ

福祉業界で経験を積んだAさん(40代)は、転職先としてリゾート業界を選択しました。Aさんの経験が生かせたポイントは次のとおりです。

・介護施設の企画・運営にあたり、個人の顧客(入居者)のニーズや気持ちに寄り添うことを意識しながらサービスを提供してきた経験が、リゾート業界でも応用できる。

・前職では経営ボードメンバーとして、業績が落ち込んでいた状態から「立て直す」「混沌としていたものを整理する」という経験をしていたことが求人企業側の状況・ニーズにマッチしていた。

Aさんは「経営」志向の強い人。求人企業側のオーナーには「次期後継者候補として迎えたい」という意向があったため、やりがいを感じて転職を決意しました。

・コンサル業界から食品業界へ

コンサルティングファームに勤務していたBさん(30代)は、お子さんが生まれてから「SDGs(持続可能な開発目標)」への意識が高まり、社会貢献につながる仕事をしたいという想いが強くなったそうです。そこで、「人々の健康を守る」を理念に掲げ、有機食品を扱う会社に転職しました。

コンサルタントの立場で経営課題の分析、解決策の提案、戦略の策定などを手がけてきた経験を、事業会社の内部で生かすようになったのです。

・インフラ業界から地方のサービス関連ベンチャー企業へ

Cさん(40代)の転職は、業種のほか、地域も「越境」した事例です。インフラ業界で管理部門長を務めたBさんは、コロナ禍を機に自身のライフプランを見つめ直した結果、「地方の自然豊かな環境で暮らしたい」という気持ちが強くなったそうです。

転職活動の結果、東京から西日本の地方都市に移住し、サービス関連ベンチャーに最高財務責任者(CFO)として入社。最初は単身赴任ですが、お子さんが大学に進学して一人暮らしを始めるタイミングで奥様も一緒に住む予定とのことです。

越境転職を成功させるポイントとは

異業種・異職種への越境転職を成功させるためには、次のポイントを心得ておくことをお勧めします。

・なぜその業種に興味を持ったのか、「ストーリー」で語れるようにする。

企業側としては、自社のビジネスにどの程度興味を持っているのかを気にかけます。それが事業へのコミットの強さに影響すると考えるからです。もちろん、自身としても、あえて異業種に飛び込むなら、納得感をしっかり持っておきたいものです。

どんなきっかけでその業種に興味を持ったのか、そのビジネスのどんな部分に思い入れがあるのかなどを、具体的な体験エピソードを交え、自分ならではの「ストーリー」として語れるようにしておきましょう。

・越境しても生かせる「ポータブルスキル」をアピールできるようにする。

自分が身に付けている、業種が変わっても生かせる「ポータブルスキル」とは何なのかを認識しましょう。ポータブルスキルの種類は、厚生労働省のサイトでも紹介されています。

職務経歴書の「自己PR」欄や面接などでそれを伝えられるように、これまでどんな場面で、どんな人を対象に、どのようにポータブルスキルを発揮してきたのかを整理・言語化しておくことをお勧めします。

・「変化対応力」「レジリエンス」を身に付けておく。

異業種に転職すると、風土や価値観、習慣などの違いに戸惑うこともあります。

そうした変化にも柔軟に対応できる力を身に付けておきましょう。衝撃を受けたり、逆境に置かれたりしても心折れることなく、しなやかに対応できる「レジリエンス」を磨くことも大切です。

例えば、経験のないプロジェクトに手を挙げて参加してみる、希望を出して他部署に異動する、副業で未経験業種の事業に関わってみる……といった方法でも、変化対応力を鍛えることができます。

ポータブルスキルを生かすことで、自分では思いもよらなかった異業種で活躍の場を見つけられる可能性もあります。転職を考えるなら、視野を広げてみてください。

森本千賀子

morich代表取締役兼All Rounder Agent。リクルートグループで25年近くにわたりエグゼクティブ層中心の転職エージェントとして活躍。2012年、NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。最新刊『マンガでわかる 成功する転職』(池田書店)、『トップコンサルタントが教える 無敵の転職』(新星出版社)ほか、著書多数。

[NIKKEI STYLE キャリア 2020年12月04日 掲載]

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