次世代リーダーの転職学

ジョブ型議論に惑わされるな 転職の売りは3点セット

経営者JP社長 井上和幸

新しいチーム・職場になじめる能力は、どんな企業でも求められる(写真はイメージ) =PIXTA
新しいチーム・職場になじめる能力は、どんな企業でも求められる(写真はイメージ) =PIXTA

働き方・雇用関連の話題では「メンバーシップ型vs.ジョブ型」での議論がにぎやかですね。目立つ論調はこんな感じです。「これまで日本企業は新卒採用を中心にメンバーシップ型(人に対して仕事を割り当てる)でやってきたが、これからは欧米で大半を占めるジョブ型(仕事に対して人を割り当てる)が生産性向上につながるということで導入に踏み切る企業が増えている」――。でも、この論調では見過ごされているところが少なくありません。転職にあたってこの議論をどうとらえていけばよいのでしょうか。

そもそも「メンバーシップ型=職能給、ポテンシャル採用」「ジョブ型=職務給、プロフェッショナル採用」の言い換えにあたり、これらは昔からある賃金制度です。この2種類以外に成果給(昨今の表現に言い換えるなら「パフォーマンス型」?)があります。

両者の位置づけは今、二択の議論というよりは「メンバーシップ型からジョブ型へ」という一方向の議論に向かいつつあります。しかし、実は少なからぬ日本企業の人事制度・給与体系は昭和の時代からこれらの組み合わせ(はやりの言い方をするならば「ハイブリッド型」)でした。

転職活動中のミドル・シニアには、この「メンバーシップ型vs.ジョブ型」議論に巻き込まれたり、時流に迎合したりする必要はないですよというのが私の結論です。むしろ、そんなことよりも、改めて明確にし、自身の「売り」とすべきことが3つあると考えます。それは、「出せる成果」「なじむ風土」「動かせる組織・人材」です。

期待されるのは「出せる成果」

ミドル・シニアが転職時に求められるのは、第一に「どのような職務において、どのような成果・結果を出せるか」です。たとえば、次に挙げるような成果・結果を期待されます。

・あなたは我が社がここからIPO(新規株式公開)を成し遂げるために必要な管理部門の構築・強化を行い、最高財務責任者(CFO)として上場へ導いてくれるか

・あなたは当社がここまでネットマーケティングで実現してきた中堅中小法人顧客の開拓から、大手企業への食い込みのためにエンタープライズセールスをリードしハイタッチセールスの体制構築と自らのトップセールスで早期に大きな売り上げ数字を作ってくれるか

・あなたは流通小売りの我が社が着手し始めているDX(デジタルトランスフォーメーション)において、既存のSCMやマーケティングに関与しながら次世代型のDX体制の構築とバリューチェーンのデジタライゼーションを実現してくれるか

業務範囲が明確で、目標も明示されているという意味ではジョブ型的といえるでしょうか。しかし、主な力点は「職務定義に合致しているか」という静的なスペックをみているというよりも、その職務に対してあなたが取る「思考・行動スタイル」と、そこから生み出されるであろう「成果期待値」の動的・ダイナミックな部分にあります。

当連載のバックナンバー「転職成功へ企業の本音見抜け 採用者納得の3ステップ」でも紹介した通り、「そもそもどのような状況で(Situation)、それに対してあなたはどのような取り組みテーマを立て(Theme)、実際に実行し(Action)、どのような成果が定量・定性で出たのか(Results)」(頭文字を並べて「STAR」)というストーリーがあること、それを選考時に職務経歴書上や面接時にしっかり伝えることこそ、次の活躍の場への橋を架ける第一歩です。

組織フィット・企業カルチャーフィットの軽視は禁物

次に、改めてしっかり認識してもらいたいのが、「どのような組織、企業風土にフィットするか」です。こちらはある面、メンバーシップ型的な側面といえるのかもしれませんね。私たちが日々、転職ご相談でミドル・シニアの皆さんとお会いしていて、このことをしっかり最重視ポイントに置いている人とそうでない人とで二極化傾向を感じ続けています。

もしあなたが組織フィット・企業カルチャーフィットを軽視しているなら、絶対にその考え方だけは変えたほうが、今後のためだと断言します。なぜかと言えば、究極のところ、私たちが気持ちよく、楽しく職場で働けるベースラインは「そこにいる人たちとの相性」に尽きるからです。若手からシニアまで、転職理由の8割が「上司と合わない、気にくわない」「職場の人間関係が悪い」という組織フィットでの不具合によるものです。

そして、組織フィット・企業カルチャーフィットは今、非常に重視されるようになっています。特に魅力的な事業を創出している成長ベンチャー各社では、ほぼ100%の確率で、どんなにスキルが高い人でも、自社のビジョンや人材価値観に合致しない人は採用しないという明確さを持っています。

逆に言えば、この部分について考えや基準があいまいな企業は、入社後の職場コンディション・雰囲気はあまり良いものではないかもしれません。一考の余地ありだと思います。ぜひしっかりと確認して、見極めてください。

コロナ下でも抜擢されるのは「組織・人材を動かせる」リーダー

3つ目に「チーム(組織)やメンバー(人材)をどう動かしてくれるか」というリーダーシップ側面があります。リーダーシップ資質に関して、採用側が主に求めるのは次の2点です。

・あなたが自社の組織や人材をうまく使って成果を出してくれるのかということ(目標設定し、職務を割り当て、遂行し、結果についてレビューと評価・考課を行えるのか)

・それにとどまらず、組織を生成発展させていってくれそうか、人材を採用・育成・開発し成長へと導いてくれるか

この2点について、これまでの具体的な取り組みや実績、あるいは苦労を含めてしっかり応募先企業、経営者に伝えることができるか否かで、「ぜひとも我が社に」と引く手あまたになるか、求められないミドル・シニアとなるかが、くっきり分かれます。

肩書きは何であれ、ミドルやシニアの皆さんの転職では、「他人を扱い、試行錯誤・苦労しながら、組織としての成果を上げる」ということに対して相応の役割と報酬が支払われるのだということをしっかり認識して臨んでもらえればと思います。

メンバーシップ型かジョブ型か。転職先企業がどの雇用スタイルを取っていようと、どの雇用スタイルに変えようとしていても、ミドルやシニアの皆さんが持っているべきで、転職活動時にしっかりアピールして伝えるべきものは、この3つであることは変わりません。

「出せる成果」「なじむ風土」「動かせる組織・人材」についての3点セットを具体的に分かりやすく面接相手に伝えることに集中すれば、このウィズコロナ下であってもおのずと転職活動はうまく行きます。それに加えて、入社後の活躍の確度がぐんと高まりますので、お楽しみに。

井上和幸

経営者JP社長兼CEO。早大卒、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、リクルート・エックス(現リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。「社長になる人の条件」(日本実業出版社)、「ずるいマネジメント」(SBクリエイティブ)など著書多数。

[NIKKEI STYLE キャリア 2020年11月20日 掲載]

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