
よく目にする経済ニュースについての疑問に日経の記者が基礎からわかりやすく答える書籍シリーズ「Q&A 日本経済のニュースがわかる!」(日本経済新聞出版)。最新の2021年版からキャリアづくりに参考にしたい気になるテーマを厳選して紹介します。2回目は経営です。
Q 銀行業界の苦境がいわれていますが、どういった点からですか?
A 少子高齢化や地方経済の衰退といった構造問題が銀行の体力を奪っています。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う景気悪化で、融資が焦げ付く恐れも出ています。
構造問題に加え、コロナが追い打ちをかける
少子高齢化や地方経済の衰退といった構造問題に加え、長引く超低金利でメガバンクや地方銀行の経営は厳しくなっています。決算数字からも明らかです。大手銀行5グループの2020年3月期の連結純利益は前の期に比べ2%減の1兆9960億円でした。もっと厳しいのは先行きで、21年3月期の連結純利益見通しは前期比23%減の1兆5300億円です。特別損失が消えて微増となった三菱UFJフィナンシャル・グループを除くと、4社が2ケタ減となる見通しです。主力業務が軒並み打撃を受け、金額は11年ぶりの低水準に沈みます。
減益の最大の理由は、融資が回収できないリスクに備えた貸倒引当金の積み増しです。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う景気悪化を見すえ、各銀行は融資先の破綻が増えることに備えています。債権放棄などを含む不良債権処理費用が膨らみ、利益を押し下げるとみています。

地方銀行も同じです。全国にある地銀の約7割が21年3月期の最終減益を見込んでいます。
疲弊していた地方経済にとって、訪日客の増加は明るいニュースとなっていました。地方銀行は、訪日客を当て込んだホテル建設や小売り・飲食店の店舗拡大などに伴う資金ニーズに対応するために、融資を積極化していました。
コロナの影響で観光客の往来が途絶え、状況は一変しました。地域の経済活動の回復は見通せません。大手銀行と同じで、融資が焦げ付くリスクを慎重に見積もった結果、与信関連費用を増やす銀行が多くなっています。

新型コロナの感染拡大に伴う経済収縮で、これまで借り入れに距離をおいてきた優良企業が融資に殺到しています。企業の資金繰りを支える銀行に存在感が出ているのも事実です。
東京商工リサーチによると、新型コロナ感染拡大を受けた上場企業の資金調達は6月上旬までに9兆6758億円に達しました。トヨタ自動車の1兆2500億円を筆頭に、ANAホールディングスの9500億円、日産自動車の7125億円、JFEホールディングスの7000億円など大企業の資金調達が相次いでいます。
問題は融資の「量」が増えても、貸出金利が低下していることです。日銀がまとめた「貸出約定平均金利」によると、大手銀行の20年5月の新規融資の平均金利は0.324%で、1993年の調査開始以来、過去最低となりました。地方銀行の同金利も0.562%とこちらも過去最低です。
貸出金利が低いのは、コロナ前の財務状況をもとに決めているからです。コロナ前の日本企業の業績は総じて好調で、銀行にとっては貸し倒れリスクが低いため、貸出金利も低くなりやすいのです。さらに、政府の実質無利子・無担保融資の存在も金利の押し下げに効いています。本業の貸出でもうけられないところに今の銀行の苦しさがあります。
デジタル化への遅れも苦境の原因に
外部環境のせいばかりではありません。積極的な経営改革を進めてこなかった銀行にも原因があります。とりわけ、デジタル化への対応は出遅れています。法人向けも個人向けも対面を前提とし、店舗を起点にした営業を続けてきました。デジタルサービスへの移行が進まず、コロナ禍で銀行の弱点がより浮き彫りになったともいえます。
銀行の主力業務である送金ビジネスでは、コストも安く、決済スピードも速いフィンテック企業が台頭しています。危機感を募らす銀行は、デジタルに詳しい人材を中途採用したりするなどして、金融DXを強力に進めようとしています。これまでの自前主義を捨て、IT企業との提携にも積極的です。
例えば、みずほフィナンシャルグループとソフトバンクはスマートフォンを活用した金融事業で包括提携することを決めました。三菱UFJフィナンシャル・グループは銀行やネット証券の分野でKDDIと連携、三井住友フィナンシャルグループはネット証券最大手を抱えるSBIホールディングスと包括提携しました。デジタル戦略を進めながら、銀行が取り込めていない若年層を開拓する狙いがあります。デジタルを使った新しいサービスの開発はもちろん、銀行のコスト構造を大きく見直さないと、苦境から脱するのは難しいです。
(「Q&A 日本経済のニュースがわかる! [2021年版]」から再構成しました)
[NIKKEI STYLE キャリア 2020年12月17日 掲載]