自分のキャリアを見渡すと、今後の展望をイメージしやすくなる(写真はイメージ) =PIXTA
新型コロナウイルスの影響で、2020年4~6月期のGDPが年率28.1%減(改定値)と戦後最大の下げとなりました。ANA(全日本空輸)をはじめとする観光関連産業や外食産業などでは、雇用をめぐる状況は決して楽観できる状況ではありません。コロナ禍以前から進められていた「働き方改革」も一気に加速。特にホワイトカラー層にとっては、リモートワーク環境で求められる働き方や生産性など、ゲームのルールが大きく変わろうとしています。現在30歳のホワイトカラーは、人生100年時代の中でどんな働き方を考えておくべきなのでしょうか。
転職支援の仕事をしていると、「今はどの業界が伸びていますか」と聞かれることがよくあります。一般的に答えるとすると、IT(情報技術)やインターネット、コンサルティング業界、またBtoBで新たなサービスを行っているベンチャー企業などを挙げることになるのですが、それだけではリアルに答えきれない側面があります。
具体的にいうと、伸び盛りの先端業界の中にも戦略がうまく機能せず、経営的に苦しい企業もあれば、業界全体としては下降傾向にある古い業界であっても、革新的なサービスや打ち手で成長している企業もあるということです。
業界そのものの衰退トレンドとは逆行して、個別企業の創意工夫で成長を続ける企業が増えており、単に「業界としてどこが注目か」という観点では、転職先を検討する際の視点として不十分になってきています。特に2008年のリーマン・ショック以降、その傾向が顕著になっています。企業の個別戦略によって業界内格差が広がるということは、転職活動をする側も、十把一絡げではなく、より精度の高い「企業を見る目」が必要になっているということを意味しています。
一方で、内閣府の調査では「雇用保蔵者」という名の余剰人員は日本全体で400万人以上にのぼるといわれています。リストラ対象の低年齢化も進んできており、20世紀型経済から21世紀型経済への労働移動が大きく展開しようとしている状況です。俯瞰(ふかん)的な視界で、世の中の動向を読み解きながら、今後のキャリア構築を考えていくことを、強くお勧めします。
リモートワークがもたらした「実力可視化」社会
「伸びる業界や企業もあれば、沈む業界や企業もある」ということと同じように、個人のキャリアについても「成長の余白が大きい人と付加価値が下がり始める人」という見方は可能です。たとえばコロナ禍でリモートワークが一気に進んだ結果、会社にいなくても成果を出せる人材と、従来型の働き方の中で何となく機能してきた調整型の人材の間で、生み出す価値の格差が注目されています。
多様な業界・企業の現場で、従来の労働環境があったから必要とされてきた仕事が、労働力としての需要を失うことになったり、従来の環境の中でしか成果を生み出せない人が明確に可視化されたりする現象が起こっています。
また、このリモートワーク環境の広がりは、個人個人の働き方に自立性が求められるという意味で、個人事業主型の副業についても大きな追い風となっています。いわば新型コロナという脅威のおかげで、日本的な働き方が想像もつかなかったスピードで変わろうとしているのです。
こういうシーンで最も弱さが出てしまうのは、40歳を過ぎるまで一つの大企業に勤め、その企業には最適化されているが、社外とは隔絶されている「純粋培養」のプロパー社員。こういう人たちが初めての転職に踏み込む場合には、転職そのものの恐怖感(ほとんどが先入観でしかないのですが)で行動がフリーズしてしまうこともあります。
単に大企業が厚遇だったからとか、転職マーケットの相場を知らないからではなく、「(一つの勤め先で得た)単一の視点しか持っていないこと」が主な原因になっていることが多いと考えています。
「自分の生涯キャリア」を見晴らしてみる
まずお勧めしたいことは、自分の仕事人生の全体像を俯瞰できる、見晴らしのいい場所に移動してみることです。とはいえ、物理的にそういう丘のような立地があるわけではないので、視界だけでも移動してみる方法をご紹介します。自分の仕事人生を俯瞰的に見るために、パソコンを開いて表計算シートで以下の作業をやってみていただければと思います。
縦軸を0歳~80歳、横軸を1月~12月として表を作ると、960カ月分のセルが出来上がります。仮に寿命を80歳だと仮定してみると、この960カ月が人生の全体を俯瞰した一覧表となります。
人生見晴らしマップは表計算ソフトで簡単に作れる
小学校、中学校、高校、大学、就職(1社目)、転職(2社目)という具合に、自分の生きてきた道を、このセルに書き込んでいってみてください。たとえば、体力や気力を考えて、仕事人生をいったん70歳までと考えて、70歳の誕生日をリタイア予定日だと仮定すると、現在地点からそこまでの残り月数が可視化できます。
この真っ白な残り時間を、どんな仕事人生にしていきたいのか。あるいはどんな仕事人生であれば作り上げることができるのか。10分もあれば作れるこの表を見ながら、人生設計の思考を巡らせてみてほしいと思います。
「逆算思考」でキャリアに保険をかけていく
自分は、人生でこの先、どれぐらい働くことができるのかが可視化できると、時間という財産の価値がいくらか見えてくると思います。人生で最も資産価値が高いものは、高級車でも家でもなく、自分の時間です。この時間をどう有効に使えるか次第で、人生そのものの充足感が変わってくると思います。
時間の使い方が下手な人は、受動的に生きることで時間を浪費してしまう人です。特に、会社や環境を起点として生きることは後悔を招くおそれがあります。転職に動いた人たちも、これまではアクションを起こさざるを得なくなった人たちが、ほとんどだったのです。仕方がないから転職を考えた、と。
自ら進んでキャリアをデザインする「自分起点」で動こうとした人よりも、受動的なアクションのほうが圧倒的に多かったのです。そして、受動的なアクションで転職しても、結局はうまくいきません。迎える企業側は、自分の意志で来てくれる人を求めているからです。
そもそも自分の人生を自分の意思で決める自己決定は、極めて重要です。なぜなら、それが幸福度を大きく左右するからです。自分で選択し、決定することが、充足感につながる因子だからです。しかし、現実には自分で決めているようで実際は流されているだけの人がいかに多いことか。
学生時代の就職で、「内定をもらう」ことが目的化して、あいまいな意思決定をしてしまった人。入社後の異動や転勤で不本意なことを受け止め続けた結果、自分のメインキャリアがわからなくなってしまった人。
毎日のように多くのミドル世代の人たちに会って話を聞いていると、よく聞こえてくるのは、「他責」の言葉。会社の業績が厳しくなったから動かざるを得なくなった。上司と合わないからもうこの会社は嫌だ。本意でない部署に会社から異動を命じられた……。
社会的な地位や年収がいくら高くても、人生の重要な意思決定を誰かに預けてしまったということは、後々、充足感を得にくい背景・要因となります。
また、自分で意思決定をすることなく、会社が決めた命令を受け入れざるを得ないと思い込んで、受動的な立場を続けてきた人は、どうやって自分の時間をデザインしていけばいいのかさえもわからなくなってしまうことがあります。
大切なことは、自分の人生の時間に対して、自らイニシアチブを持って意思決定することです。
メジャーリーグで活躍したイチローさんは、プロ野球時代に3割8分5厘(1994年)という打率成績を周囲から褒められても、何とも思っていなかったといいます。理由は、イチローさん自身がその数字を目指していたわけでは全くなかったからです。むしろ自分にいら立ちを感じ、4割超えを本気で目指していたともいわれます。その結果が3割8分5厘だったわけです。イチローさんは自分の可能性から逆算した目標を自分で定めていたのでしょう。
ぜひ与えられた能力と時間を最大限有効に使うために、仕事人生の残り時間から逆算して、自分の時間をどう使っていくのかを検討してみてもらえればと思います。
黒田真行
ルーセントドアーズ代表取締役。日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。2019年、中高年のキャリア相談プラットフォーム「Can Will」開設。著書に『転職に向いている人 転職してはいけない人』、ほか。「Career Release40」 http://lucentdoors.co.jp/cr40/ 「Can Will」 https://canwill.jp/
[NIKKEI STYLE キャリア
2020年11月06日 掲載]