花王、成果主義を修正 人事評価で過程重視

過程で交わされた議論なども新たな成長につなげる狙いがある
過程で交わされた議論なども新たな成長につなげる狙いがある

花王は2021年1月から、社員の評価について業務の過程を重視する新たな人事制度を導入する。目標が達成できなくても、同時に設定した業務プロセスの実現度合いを新たに評価の対象にする。目標は全社員で共有し、他部署との連携強化にもつなげる。

従来は目標の100%達成を最も重視しており、設定する水準が低くなりがちだった。斬新な目標づくりによる社員の士気向上のほか、過程での議論や連携などを新たな成長につなげる考えだ。成果主義の修正で競争力を高める。

OKR(Objectives and Key Results、目標と主要な結果)と呼ばれる米国発祥の人事制度に移行する。社員はあらかじめ業務目標と、達成に向けた仕事の進め方を決める。たとえば包装容器の研究者が「リサイクル洗浄コストを半分にする」との目標を設定した場合、実際に半減できなくても過程に注目する。

アイデアを募るためにほかの研究所とワークショップを開催し、洗浄方法を見直すきっかけとなる議論が生まれた場合などは、成果とは別に評価する。特に事業の新規性が問われる研究や企画部門では結果よりプロセスの評価を重くする。

従来の人事制度では、目標の達成度合いを最大の評価対象とする。現在は全社一律で目標の達成度が人事評価の8割を占める。新制度では部署や仕事内容によって異なるが、プロセスへの評価が全体評価の半分を超えるケースもある。

21年1月に社長に就任する長谷部佳宏専務執行役員は「低い目標を立てて達成してしまうと、それ以上を求めなくなる」と話す。社員は達成できそうな目標を立てるため、難易度の高い挑戦を避けがちになっていたという。

花王は売上高が約1兆5000億円(19年12月期)と日用品製造で国内首位だが、6割超が国内で海外市場の開拓が遅れている。収益性も仏ロレアルや米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)など海外大手と比べ低い。

長谷部次期社長は「従来の延長線上で物事を考えていても、これ以上の成長は見込めない」と指摘する。海外の競合との差を縮めるには、日用品の既存カテゴリーだけでは限界があると判断。目標の達成度はあえて問わず、斬新な発想による新たな商品やサービスの開発に活路を見いだす。過程での議論や他部署との連携を、新たなイノベーションにつなげる狙いもある。

一方で成果に代わり過程を重視すると、本業を対象にした目標達成への熱意が落ちる可能性がある。花王は社員の目標や進捗度合いを公開することで社員の緊張感を高め、成果に対するやる気を持続させる。プロセスの遂行へ、他部署との連携を取りやすくする効果も狙う。

評価の対象となる業務も、従来は自分の部署の仕事だけだったが、今後はESG(環境・社会・企業統治)対応と、業務外の取り組みを加える。たとえばESGは商品のデザイン担当者の場合「小学生向けのデザイン講座の定期開催」などを評価対象とする。

業務外は「趣味を業務に生かすため、仕事の5%を趣味に充てる」など、現時点で部署の業務に関係のない取り組みでもかまわないという。長期的な事業貢献のため、社員の視野を広げる狙いがある。これらの過程と成果から給与と賞与など評価を決める。

OKRはグーグルやフェイスブックなど米IT大手が先んじて採用。国内ではメルカリなどIT企業の導入事例が多いが、大手メーカーが全社的に導入するのは珍しい。15年に導入したメルカリは「自分自身で高い目標を立てることで仕事の優先度が明確になる」(広報担当)という。

OKRに関する著書がある人事コンサルティングのタバネル(大阪市)の奥田和広代表は「これまでは上意下達の組織で求められる成果を出すことが重要だった。今後は一人ひとりの挑戦を促す制度設計が重要になる」と指摘。その上で「目標達成には、上司との週1回の面談で進捗状況を確認するなど運用面の工夫が必要だ」と話す。

[日経電子版 2020年12月09日 掲載]

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