
ロート製薬は4月、起業家を育てる社内プロジェクトを始めた。社員が実現したいサービスを会長・社長を含めた全社員に向けて訴え、採択されれば社内の仮想通貨を使ってクラウドファンディングを実施。調達額に応じた予算が付く。将来はロートから独立することも可能だ。副業にとどまらず、キャリア形成の多様な選択肢を提供する。
社内ベンチャー支援プロジェクト「明日ニハ」では、自身のアイデアを基に起業する人材を募集する。企画したアグリ・ファーム事業部の市橋健さんは「自分が本当にやりたいことを議論できる空気を当たり前にしたい」と狙いを話す。
市橋さんは2004年にロートに入社し製造部門などで働く傍ら、16年に始まった副業制度を活用しクラフトビールの製造販売事業を奈良県で立ち上げた。「自分と同じように挑戦したい人は多いはず」と、社長に直談判し明日ニハの立ち上げにこぎ着けた。
プロジェクトではまず、提案されたサービスの市場性や競争優位性、参加者の思いの強さを測る。事業内容が心や体の健康を指す「ウェルビーイング」に関連していれば良い。事務局員が選考し、通過すれば会長・社長にプレゼンする。
その後に社員から「資金」を募る。ロートは19年、日々の歩数など生活状況に応じて付与する社内仮想通貨「アルコ」を導入した。社員は各提案者にアルコを出資し、ポイント数に応じて会社が予算を付ける。出資者へのリターンの仕組みについては検討しているところだ。

審査を通過すると社内プロジェクトとして動き始め、自身の職場と2つの仕事を並行する。その後は実際にサービスの試験投入など経ていずれは専業となり、社内のプロジェクトとして続けるか独立するかを参加者が判断できる。
4月の社内応募には入社2年目から部長級まで計11組の申し込みがあり、4組が事業化に向け準備している。親子料理教室を目指す女性は「多くの社員から直接意見を聞けることも学びになる」と話す。
ロート製薬は早くから副業や兼業を解禁するなど、働き方の先進企業として知られる。ただ、市橋さんは「ビジネスを0から1にする人はまだまだ少ない」と指摘する。行動力のある人間を育成し、独立志向のある優秀な人材の受け入れにもつなげる。(下野裕太)
[日経電子版 2020年11月30日 掲載]