次世代リーダーの転職学

DX時代こそ必要なスキル デジタル力より、まず動く力

エグゼクティブ層中心の転職エージェント 森本千賀子

DXの加速は転職市場にも変化をもたらしつつある(写真はイメージ) =PIXTA
DXの加速は転職市場にも変化をもたらしつつある(写真はイメージ) =PIXTA

「DX(デジタルトランスフォーメーション)」に取り組む意識が一段と高まってきました。コロナ禍によって、「対面」や「イベント」方式の営業活動あるいは業務オペレーションに制限がかかってきたことから、デジタルを導入してビジネスモデルや業務を変革しようとする「DX」推進に本腰を入れる企業が増えています。

そうした動きに伴って、DX推進を担う人材の採用も活発化しています。DX推進に欠かせない要素といえば、「データの活用」「人工知能(AI)の導入」「クラウド化」など。これらのプロジェクトに携わった経験がある人は総じてニーズが高いといえます。

しかし、採用ターゲットとなるのは、必ずしもデジタル領域のスペシャリストやIT(情報技術)・ネット系エンジニアだけではありません。デジタルの専門家ではない人が、「発想力」「企画力」「変革推進力」などを買われ、DX推進を担うポジションで転職を果たしているケースもあるのです。

DX推進の目的は多様で、大きく分けると「攻めのDX」「守りのDX」があります。それぞれの目的に対し、どんな人材が求められているかをご紹介しましょう。

「攻めのDX」で求められる人材

「攻めのDX」とは「イノベーションを起こす」ことです。既存のプロダクトやサービス、あるいは営業手法から脱却し、新たな価値を生み出すことで利益につなげようとする取り組みです。業界内でいち早く打ち出し、マーケットで優位に立つことを狙います。

例えば、住宅業界であれば、お客様に住宅展示場やモデルルームに足を運んでもらうのではなく、自宅にいながらVR(バーチャルリアリティー)で住宅の内覧ができるサービスを提供する。小売業界であれば、顧客の購買行動のデータをリアルタイムで解析し、即座に商品開発やECチャネルでの販売戦略に反映させるといった取り組みがこれに当たります。

では、各業界でこうした「攻めのDX」を推進するポジションには、どんな人材が求められているのでしょうか。

職種としては「経営企画」「事業開発」「事業企画」「営業企画」など。「DX推進室長」といったポジションの求人もあります。「CDO(チーフデジタルオフィサーまたはチーフデータオフィサー)」のポジションを置く企業も出てきています。

もちろん、デジタルのリテラシーや導入経験があれば重宝されますが、そんな人材はまだまだ多くありません。そうした知識・経験がなくても、ビジネスの構造を理解し、固定観念を打ち破れる人、これまでになかった価値とはどんなものかを発想できる人、デジタルの専門事業者を巻き込みながらアイデアを形にしていくプロジェクト推進力がある人であれば、DX推進のポジションで迎えられる可能性があります。

時流をつかんで、DX推進プロジェクトへ転職

現在、経営企画や事業開発などの担当者として働いている皆さんの中には、「DXに取り組むべきだと考えて情報収集や勉強をしているものの、経営トップがなかなか腰を上げてくれない」と、もどかしく感じている人もいるかもしれません。そういう人をDX推進プロジェクトに迎えたいと考えている企業もあるので、この波にタイムリーに乗ってキャリアを積んでいくためには、転職という選択肢もあるかと思います。

Aさん(40代)の事例をお伝えしましょう。Aさんは出版業界で紙メディアの編集プロデュースを任されていましたが、デジタル時代の到来に危機感を抱いていました。しかし、会社にデジタル事業への取り組みを進言しても聞き入れられませんでした。行動を起こさずにいられなかったAさんは、副業でスタートアップ企業のオンラインメディアの立ち上げに参画しました。

オンラインメディアの編集やマネタイズモデルの企画に携わる中で、変化のスピードを実感し、さらに危機感を強めたAさん。結果的にオンラインメディア運営企業に転職しました。

DX時代に適応できる人材になるために

DX推進を任せる人材に求める要件として、こんな声もよく聞こえてきます。

「ウオーターフォール型よりアジャイル型の人がほしい」

これはシステム開発で使われる用語で、「ウオーターフォール型」とは上流工程から下流工程までをきっちり順番を追って進めていく開発手法です。一方の「アジャイル型」とは「素早い」を意味し、短期スパンで開発とテストを繰り返しながら仕様変更や機能追加を進めていく開発手法です。

アプリの開発現場などでは近年、「アジャイル型」が増えてきました。事業開発などのプロジェクトにおいても、同様の進め方が求められるようになっています。

つまり、ゴールを明確にし、計画をしっかり立てた上で着実に進め、完璧な状態でリリースするのではなく、「走りながらソリューションモデルを臨機応変に変えていく」ということ。ゴールが明確に定まっていない状態でも推し進め、完成度が5~6割の状態でリリースして、市場の反応を見ながらアップデートを繰り返し、徐々にゴールを描いていく。そんなスタイルでプロジェクトをけん引できる人材が、今後強く求められるようになっていくでしょう。

今、皆さんが手がけている業務の中でも、可能な範囲でそうした進め方を取り入れてみてはいかがでしょうか。そこで成功体験を作ることが人材市場での価値アップにつながると思います。

「守りのDX」で求められる人材

収益を生み出すことを目的としたイノベーションや新規事業に取り組む「攻めのDX」に対し、「守りのDX」とは、業務オペレーションの効率化、コスト削減、サプライチェーンの最適化といった取り組みを指します。

守りのDXを推進する企業が求めるのは、「課題発見・抽出力」を持つ人材。しかも、表面的な小手先の効率化ではなく、業務の本質をとらえ、「残すべきもの」「残す必要がないもの」を見極められる人材が必要とされています。加えて、セキュリティーやリスクマネジメントの観点も欠かせません。

求人が出てきているのは、事業会社の経営管理部門・情報システム部門・コーポレート部門(経理や人事、総務、法務)などからです。各業務の専門性に加え、データやデジタルを活用した戦略的思考ができる人材が求められています。

コンサルティングファームのBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)コンサルタントやSIer(システムインテグレーター)の営業など、クライアント企業の業務課題の分析・改善を手がけてきた人が事業会社に移る事例が増えてきています。

菅義偉首相は全省庁の行政手続きを対象に「脱はんこ」や書面・対面主義の見直しに向けた方針を打ち出し、河野太郎氏を行政改革の旗振り役として任命しました。こうした背景もあり、企業の「守り」の部門においてもDXは加速していくことでしょう。

管理系の仕事のスタイルは確実に変わっていくので、従来のやり方を変えることへの抵抗感を捨て、どん欲に学んで新たな手法を取り入れていくことをお勧めします。

転職先を選ぶなら「トップの本気度」に注目を

「DX推進プロジェクトに携わりたい」「DXの領域でキャリアを積みたい」という人が転職を図る場合、ぜひ注意して見てほしいポイントがあります。それは「経営トップの本気度」です。

「DX戦略の責任者を募集」など、求人のワードは同じでも、熱量には差の大きいことがあります。実際、「世間ではやっているようだから、うちの会社も何かしてみようか」と、DX推進部門を設けてみたものの、なかなか思うように進まない企業も。DX推進担当者が経営に提案を上げるものの、効果を予測できないため投資判断ができないというケースもあるようです。

経営トップが現状にどれだけの危機感を持っているか、DX推進によってリアルビジネスにマイナスの影響が出る可能性があるとしてもリスクをとる覚悟があるかどうか。DXを意識して転職先の企業を選ぶ際には、ぜひそうした点に注目してみてください。

森本千賀子

morich代表取締役兼All Rounder Agent。リクルートグループで25年近くにわたりエグゼクティブ層中心の転職エージェントとして活躍。2012年、NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。最新刊『マンガでわかる 成功する転職』(池田書店)、『トップコンサルタントが教える 無敵の転職』(新星出版社)ほか、著書多数。

[NIKKEI STYLE 出世ナビ 2020年10月23日 掲載]

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