次世代リーダーの転職学

今の仕事やりきった? 転職前に3ポイントを最終確認

経営者JP社長 井上和幸

転職を決める前に現職での「やりきった感」の有無を確かめたい(写真はイメージ) =PIXTA
転職を決める前に現職での「やりきった感」の有無を確かめたい(写真はイメージ) =PIXTA

ミドル・シニアの転職活動がウィズコロナでも変わらず活発な事情には、様々な就労環境が関連しています。新型コロナウイルスの影響を大きく受け、現職のままでは今後が不安だとか、会社が生き残りをかけてリストラ施策に踏み切ろうとしているなどの状況もあるでしょう。あるいは逆に、オンライン対応のニーズが急増する事業下にいて、攻めモードの有利な状況を生かして自分の専門性でさらに大きなチャレンジをしたいという人もいるはずです。いずれにしても、足元の求人倍率の低下や求職者数・失業者数の増加傾向をみるに、不透明さを増しそうなこれからの市況、求人環境にあって、このタイミングで転職に踏み切る皆さんに、念のため最終確認してもらいたい3つのことについて紹介します。

まず、「その1」は、「現職への不満について、上長や社長に改善改革の直訴をしたか?」です。

「聞いてくださいよ、井上さん。うちの社長、このコロナの中で、何の対策も打たないんです。ほとほとあきれてしまって。もうこれ以上、このような会社にい続ける気になれません」

こんな相談を、最近はキャリア面談時に耳にします。自分が考える戦略や対応とトップの考えが異なる。コロナ対策を何もしない。この状況なのに、オフィス出勤命令が出る。不満の中身は様々です。

非常時には誰しも不安な気持ちになるものです。それに対して会社の考え、トップの考えが見えなかったり、自分の期待値と異なるものであったりすると、それは大きな不満とストレスになるものです。人によっては、それが爆発して突発的な言い合い・けんかのような状況となってしまって、そのまま怒りに任せて転職登録という方もいるもよう。心中お察し申し上げます。

実は転職をする理由はないかもしれない?

しかし、ちょっと冷静になってみましょうか。新卒、若手ならばいざしらず、当連載読者のミドル・シニアの皆さんであれば、「それはなぜ?」「ではどうする?」という上長、リーダーとしての思考と行動が平素から期待されていることと思います。

「上は間違っている!」と、心の中で怒りの声をあげたならば、そこから単純に転職行動に移る前にいったん落ち着いて考えてみましょう。「なぜ、社長はあえて事業の動きを変えないのか?」「どういう意図でオフィス出勤をマストにしているのか」。こういう点をしっかり確認したいですよね。

これはコロナ以前から本当によくあるケースなのですが、実は「対話してみたら誤解であった」「しっかり向き合って話したら、意見が聞き入れられた」ということが往々にしてあるのです。要は、向き合っていない、会話していないということです。

私はこうした状態で転職の相談を持ち込んできた人には、「どうせ辞めようと思っているのですから、怖いものはないですよね。ストレートに社長や役員にお話ししてみたらどうですか」とよく言っています。そうアドバイスしたとしても、実際に行動する人は残念ながら全員とはいきませんが、後日、「井上さん、社長と話してみたら、誤解が解けました。引き続き、今の勤め先で頑張ります」と報告をもらえるケースも少なくありません。

「くそっ、転職だ!」のその前に、あなたが直言すれば、現職企業を事業戦略転換やワークスタイル変革へと導くことができる可能性だってあるのです。わざわざ会社を変えずとも、今の勤め先で救世主になれるかもしれません。

敵前逃亡型転職vs社外異動型転職

次に、「その2」として、「今の職務を十分にやり切ったといえるか?」を挙げたいと思います。

今の職場に留まるにしても、新しい勤め先へ移るにしても、どちらの職場においても平時以上のタフな業務執行を求められるのがミドル・シニアの皆さんです。経営側・企業側からすれば、この状況を乗り切ってくれるリーダー、幹部であるか否かを厳しく問う必要があります。とすれば、相応以上の業務達成や成果物なくして、次の役割のアサインを求められても、それは「ちょっと待ってくれ」というのが経営側・企業側の本心です。

ここまでの役割・ミッションに自分として納得するだけ取り組めた、十分にやり切った。今、任されている職務を完了し、ここから先にはこれ以上のチャレンジがない。自分の持てる力を最大限に発揮し貢献できる場を求めたい。

こういった「やり切った感」を十分に認識できていますか。そうならば、「ここではないどこか」でさらなる大きな職務を。

やり切ったうえで、自分には今の職務でパフォーマンスを上げることはここまでで限界だと認識できたのなら、現職とは別の道へ踏み出す。

いずれにしても、方向性は明確です。転職活動も迫力ある踏み出し、踏み込みをできるでしょう。その指針に合致した次の場のご縁は、遅かれ早かれ見つかるはず。

しかし、もしもいずれでもない「どっちつかず」の転職になるなら、もう少し現職で踏ん張ってみたほうがよいでしょう。

この連載で以前も触れたことがありますが、ゲームのステージクリアをして次に進まない限り、また同じ局面がやってくる(同じステージを繰り返す)のです。職場の人間関係が問題で、それを解決せずに逃げて次の会社に行けば、その会社で必ずまた同じ人間関係の問題が起きる。任された役割に対して十分に試行錯誤をし結果を出すところまで踏ん張れず、その結果、会社からの評価が悪く、そこから逃げて次の会社に行けば、その新会社でまた同じような評価を得ざるを得ない状況に立ち至りがちです。

解決しない限り、同じ課題がまたやってくるのです。今の転職活動が「敵前逃亡型転職」になってはいないでしょうか。理想の転職とは、現在の役割・ミッションを満了したうえで次の役割・ミッションへと向かう、その際によりチャレンジングな役割・ミッションを自ら求めるという「社外異動型転職」です。

激変する環境に振り回されて行動していないか?

最後に「その3」として「キャリアイメージ、自己ミッションステートメントが描けているか?」を挙げます。

そもそもビフォーコロナのころから、ミドル・シニアの皆さんには「自分は今後、何をテーマに仕事をしていきたいのか」「自分は、どのようなところで、どのような成果を提供したいのか」というミッションやビジョン(最近の言い方ではパーパス)を持つことが、その後のキャリアを自身が望む方向へ展開させるためにとても大事でした。

そして今、明確な道しるべを自らの中に定めずに転職したり独立したりすることは、これからの時代環境を想定するに、これまで以上にリスクが高いといえます。私たちは今回のコロナ禍で、世界は数カ月で一変し得るのだという現実を体験しました。激変に振り回されるのか、その中でも揺るぎない軸を持ち進むか。『7つの習慣』を書いたスティーブン・R・コヴィー博士は「激流の時代に、翻弄され流されるのではなく、自ら舵(かじ)を取る」ために原則中心のミッションステートメントを描きなさいと指南しました。

「今後、このような道を進む」というものを心底持てているなら、ウィズコロナなど恐れることありません、ぜひ新たな場への一歩を踏み出してください。しかし、もしないならば、それがわき上がるまで、まずは目の前の業務に集中するほうが得策だといえるでしょう。

繰り返しとなりますが、「仕事人生というゲーム」のステージクリアをして、次のステージへと進まない限り、転職先で必ずまた同じ課題や問題が起こります。堂々巡りや行き先をロストするような転職は、逆にあなたの未来を望ましくない方向へと押し流します。そのようなことにならないよう、しっかり今を決着させて、次に進みましょう。

井上和幸

経営者JP社長兼CEO。早大卒、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、リクルート・エックス(現リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。「社長になる人の条件」(日本実業出版社)、「ずるいマネジメント」(SBクリエイティブ)など著書多数。

[NIKKEI STYLE キャリア 2020年10月30日 掲載]

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