隠れた2つの重要判断 最高裁、非正規格差で5つの判決

最高裁が同一労働同一賃金に関連し10月に出した5つの判決には、結論以外にも重要な判断が隠れていた。それは非正規社員の処遇を誰と比べるかという「比較対象者問題」と、格差の損害額をどう算定するかの「割合的認定問題」の考え方だ。今後の同種訴訟に大きく影響するだろう。

勝訴を喜ぶ日本郵便訴訟の原告(10月15日、東京都千代田区の最高裁)
勝訴を喜ぶ日本郵便訴訟の原告(10月15日、東京都千代田区の最高裁)

10月、賞与不支給を不合理として元アルバイトの女性が大阪医科薬科大学を訴えた訴訟で、不合理性を否定した逆転敗訴の判決が出た。原告弁護団の一人、谷真介弁護士は判決文に驚いた。最高裁が比較対象者を二審の大学の正職員全部から「教室事務員である正職員」に変えていたためだ。

比較対象者とは、非正規社員の原告が不当な処遇格差を主張する際、比較する相手のこと。訴えの根拠の労働契約法旧20条は、比較対象者との間で(1)職務内容の差(2)配置変更可能性の差(3)その他の事情――を考慮して判断する。

当然、企業側は仕事の幅が広い総合職と比較しようとする。非正規社員は身近で同じ仕事の正社員との比較を狙う。原告の選択を認める考え方を「原告選択説」という。

今回は裁判は敗訴したものの、原告選択説が通ったように見える。谷弁護士は「上告時に比較対象者の変更を求めたが、最高裁は排除したはず」と首をかしげる。

最高裁が退職金の不支給を不当でないと判断したメトロコマース訴訟でも、二審判断は、比較対象者を一審の社員全体から原告主張の「地下鉄売店に勤務する正社員」に変えた。最高裁は二審を踏襲した。

最近の裁判所は企業ごとの事情を考慮するため、一方的に企業側が不利とはいえない。ただ「非正規社員の責任は総合職より軽く、待遇差は不合理ではない」という伝統的論法は実質的に封じられるだろう。

もう一つ目立つのは、最高裁が損害額の割合的な認定に慎重だったことだ。日本郵便3訴訟では非正規の格差が不合理とされた手当で、正社員との全差額が損害とされた。一例は住居手当。東京訴訟の一審は正社員の6割分を損害と認定した。しかし二審は損害を10割とし、最高裁も踏襲。原告2人の住居手当分の損害は71万円、75万円強と高額になった。

原告側が逆転敗訴した大阪医科薬科大学とメトロコマース訴訟にもこの考え方が及んだ可能性がある。二審は、それぞれ損害額を「正職員の支給基準の60%」「正社員と同基準で計算した額の4分の1」とした。しかし最高裁は使用者側の不合理性自体を認めず、割合的認定も無効とした。

明治大学専門職大学院の野川忍教授は「賞与や退職金で最高裁が割合を認めた場合、この割合なら不合理でないというメッセージとして受け取られることを懸念したのかもしれない」とみる。

(シニアライター 礒哲司)

[日経電子版 2020年11月16日 掲載]

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