公務員兼フリーランスで「腕試し」 挑戦重ね成長目指す

神戸市広報とフリーランスの仕事を掛け持ちする大橋秀平さん(9月、東京都千代田区のWeWork丸の内北口)
神戸市広報とフリーランスの仕事を掛け持ちする大橋秀平さん(9月、東京都千代田区のWeWork丸の内北口)

「『Go To』解禁で、東京からの観光客にアピールできる材料を探そう」。9月末、東京都内のシェアオフィス。神戸市広報課の大橋秀平さん(31)は市のPR施策をテーマに、市役所にいる同僚2人とのビデオ会議に臨んでいた。

午後5時半に会議を終え、ノートパソコンを閉じた大橋さん。帰宅するかと思いきや、別のパソコンを開くと、今度は都内の理容室の集客プランを考え始めた。フリーランスで請け負っている企業広報の仕事だ。

週3日は午前8時45分から午後5時半まで神戸市の公務員として働き、それ以外は個人で契約した企業の広報関連業務を手掛ける。大橋さんは「公務員兼フリーランサー」だ。

大卒後に入社したのは海外有名ブランドの日本法人だった。入社3年後にはPR代理店に転職し、その2年後には創業間もないベンチャー企業の広報に移った。矢継ぎ早の転職は「スキルアップのためにも、ひとつの会社での業務に限界を感じた」からだ。

さらに次の職場を探していた2019年3月、求人サイト上で目に留まったのが「神戸市役所広報課」。勤務は週3日、最長3年の非常勤職員の募集だった。

縁もゆかりもない土地で、想像もしなかった公務員。見知らぬ世界に飛び込んでみるのも面白いかもしれない。軽い気持ちで応募し、2カ月後には採用が決まった。

同じ時期に、フルタイムで働く大手メディア企業の内定も得ていた。市役所の給料はその半分以下で立場も不安定だったが「公務員になる機会は二度とない」と心を決めた。フリーランスとして腕を試してみたい気持ちも背中を押した。

神戸市役所と都内の自宅は最大片道4時間。市役所では子育て支援や移住支援など、これまで縁遠かった分野の仕事にも取り組んだ。約300にも及ぶ部署から日々舞い込む相談や、書類の上部に並ぶ決裁印に戸惑うこともあったが、仕事はすぐに慣れた。

フリーランスとしての広報の仕事も、これまでの人脈で3社と契約できていた。「なんとか食べていける」。そんな見通しが立とうとしていた矢先の今年3月、新型コロナウイルス禍が襲った。

公務員の業務の縁がフリーの仕事につながることもある(9月、東京都千代田区のWeWork丸の内北口で仕事に取り組む大橋さん)
公務員の業務の縁がフリーの仕事につながることもある(9月、東京都千代田区のWeWork丸の内北口で仕事に取り組む大橋さん)

9月中旬までの半年間、市役所に一度も出勤できず、業務は全てリモートに。フリーの仕事も減り収入は落ち込んだ。住まいを手狭な物件に借り換え、持続化給付金も申請した。独りでいると、不安に押しつぶされそうになる夜が続いた。

不安を振り払おうと集中したのが、市役所のコロナ対策だった。PR代理店でネット企業を担当した経験を生かし、神戸市が特別定額給付金の支給でIT企業と連携した事例を市の広報にまとめた。後日、メディアや市民からは問い合わせが相次いだ。

「1分1秒も早く動いてほしい」「もっと他にできることはないか」。飲食店のデリバリー支援、中小企業向け補助金、家賃負担の軽減策――。「市役所という大きな組織が一致団結した時の影響力の大きさを実感できた」と振り返る。通勤が解禁され、同僚と「ようやく会えたね」と肩をたたき合ったとき、改めて充実感がこみ上げた。

市役所の仕事の縁で、兵庫の企業からもフリーの仕事を請け負った。市役所勤務は22年までで先は見えない。ただ「今の働き方が自分を成長させてくれた」という確信はぶれることがない。

また新しい挑戦に身を投じたい。好奇心に突き動かされる人生は、まだまだ続きそうだ。

文 伊藤仁士

写真 井上容

■官公庁への転職人気 社会貢献への意欲高く

民間から官公庁に転職する「民官転職」への関心は高まっている。エン・ジャパンが今年3月に35~50歳代の転職希望者2634人に実施したアンケート調査では、81%が民官転職に興味があると回答した。

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 理由のうち最多は「仕事を通じて社会貢献したい」(57%)。興味がないと回答した人でも、51%が「副業やテレワークなど柔軟な働き方が可能だった場合は興味を持つ」と答えた。
 地方自治体での外部登用の動きも相次ぐ。長野市は2019年に観光などの分野で副業限定で民間から4人を任用。奈良県生駒市も人材を募集、最大250倍以上の応募があり、今年4月から9人が働く。
 生駒市の担当者は「人手不足は全国共通の課題。多様な働き方を認め、専門的分野の人材確保につなげたい」と話していた。

[日経電子版 2020年10月24日 掲載]

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