トヨタ自動車が毎年の定期昇給(定昇)の算定方法を見直す。一律的に上がる部分をなくし、人事評価のみを反映した昇給とすることで労働組合と合意した。

日本型雇用を実践する企業の代表格とされてきたトヨタの動きは年功賃金がいよいよ限界に来た表れだ。デジタル化で企業の競争はかつてなく激しい。他企業も人事・賃金制度改革を急ぐべきだ。
トヨタの定昇は現在、職位によって一律的に額が決まる部分と、個人の人事評価にもとづく部分とに分かれる。2021年から年功色の強い前者を廃止し、後者の評価による昇給一本にする。
制度見直しは自動車産業の競争環境が激変していることへの危機感からだ。電動化や自動運転などの技術革新が進み、新たなライバルである海外IT(情報技術)企業の台頭も著しい。
個々の社員の生産性向上は欠かせず、それには成果にもとづいた処遇の徹底が必要になる。定昇制度の改革はその一環で、経営陣の提案を労組が受け入れた。労組としても、経営環境の急速な変化を踏まえての判断だろう。
トヨタの動きを機に、ほかの企業も年功賃金にメスを入れるべきだ。日本企業はITバブル崩壊やリーマン・ショックなど不況のたびに人事・賃金制度を見直してきたが、社内バランスに配慮し、中途半端な改革に終わった例が目立つ。全体でみれば、50代前半まで年齢とともに賃金が上がる仕組みがいまも残っている。
コロナ禍で企業は事業モデルの変革を迫られており、社員の熱意や能力を引き出すことがより重要になっている。貢献度に応じた処遇制度の整備は急務だ。職務によって報酬を決める「ジョブ型雇用」は選択肢のひとつになる。
日本の経営者は労使協調を重視し、世界では異質な年功賃金を温存してきた。社員の定着率を上げられるなどの利点があったが、いまは競争力低下という負の側面が強まっている。大胆な改革をこれ以上、先送りすべきではない。
[日経電子版 2020年10月06日 掲載]