
さらなる女性活躍推進が必要でありながら、女性登用がなかなか進まない企業が多い中、転職エージェントである私には「女性管理職を採用したい」という相談が常に寄せられています。さらには「女性の社外取締役を紹介してほしい」というオーダーも増えています。そこで、今回は「女性活躍推進の今」にフォーカスし、女性管理職たちのキャリア形成や転職市場についてお話しします。
これまでの経緯を整理しておきましょう。2015年9月の「女性活躍推進法」公布・施行から5年が経過しました。「2020年までに指導的地位に女性が占める割合を30%程度以上に引き上げる」という政府の目標には、いまだ遠く及ばない状況です。帝国データバンクが20年7月に実施した「女性登用に対する企業の意識調査」によると、女性管理職の割合は平均7.8%。「女性管理職30%」目標を達成している企業は7.5%にとどまっているようです。
そうした中、19年には「改正女性活躍推進法」が成立。22年4月1日からは労働者数101人以上300人以下の企業にも行動計画の策定・届け出が義務付けられることになります。
管理職、「やってみると面白い・向いている」という女性が多数
政府の目標数値には届かないものの、女性管理職の数は着実に増えています。出産を機に退職する女性が減ったため、復職率の上昇に伴い、リーダー、マネジャーのポジションに就く女性も増えているのです。
では、女性活躍推進が掲げられて以降、管理職に登用された女性たちは、今どうなっているのでしょうか。いきなり管理職昇進を打診され、戸惑ったり、「自信がない」と拒んだりする女性は多数いました。
しかし、私がここ数年、お会いしている女性たちに「管理職になってどうですか?」と尋ねると、大多数の人から「やってみたら楽しかった」「自分に合っていた」「これからも管理職のポジションで働き続けたい」という回答が返ってきます。
「理屈では通らない子どもを相手にする育児に比べたら、『話せばわかる』分、メンバーマネジメントのほうが楽」という声も。「子どもを持つことはできなかったけれど、メンバーを育てることにやりがいを感じられる」という声も聞きます。
昨今は強いリーダーシップでメンバーを引っ張っていく「統率型マネジメント」ではなく、メンバーの個性や考えを尊重し、成長をサポートする「サーバント型」「伴走型」のマネジメントのスタイルやリーダーシップの在り方が主流となりつつあります。そうしたマネジメントスタイルには、母性本能を持つ女性がフィットしていると感じます。
より働きやすい環境・風土を求めて転職
しかしながら、管理職に登用されたことで苦しんでいる女性がいるのも事実です。
実態として、女性を登用して管理職比率を高める取り組みを、対外的な「ブランディング」を目的に行っている企業も。そうした企業では、本当の意味で女性が働きやすい環境、風土が整っていないことも多いようです。
決して「不本意ながら登用された」わけではなく、もともとキャリアアップに前向きな意欲を持っている女性であっても、会社の「空気」に不満を抱いて転職に踏み切るケースは多数あります。以下は、実際に私がお会いした女性の声です。
「育児で時間的制約があることに対し、周囲の空気が寛容ではない。必死に頑張って食らいついてきたけど、もう限界...」
「子どもから手が離れてきたので、一段高いレベルの業務にチャレンジしたい。けれど、私に対して『時短勤務ママ』という印象が定着してしまっているので、新たなチャンスを与えてもらえる気がしない。もしそうであれば、純粋に私のスキルを評価してくれる企業でチャレンジをしたい」
「出産を計画しているけれど(第1子または第2子)、今の会社では育児をしながら働き続けられる気がしない。早いうちに、育児とキャリアアップを両立しやすい会社に移っておきたい」
このほか、「上司」が転職理由となるケースも少なくありません。女性にとって「上司との相性」はとても重要なファクターであり、上司次第でエンゲージメントやモチベーションが大きく左右されます。異動によって上司を変えられる可能性が低い場合、転職に踏み切る女性は少なくないのです。
そして、コロナ禍が長引いている中でも、リモートワークが導入されないことに不満を抱き、「融通が利く働き方」を求めて転職を図る動きも出てきています。
フロントオフィスで女性管理職採用を強化する動き
一方、女性のマネジメント経験者を歓迎する企業は多数あります。
管理職採用にあたり、あえて「女性」をターゲットとする企業には、次のような目的があります。
・女性社員の「ロールモデル」を作りたい
女性管理職比率を高めていこうにも、社内に「ロールモデル」がいないと、若手女性社員たちが将来像を描けない。社内では女性の意識変革が難しい、あるいは社内登用だけではロールモデルのパターンが限られてしまうので、外部から迎えようとしている。
・女性が多い組織のマネジメントを任せたい
女性が多い職場なので、女性の気持ちが当事者としてもわかる女性管理職のほうがマネジメントに期待できる。
・女性を中心とする部隊の立ち上げ、拡大にあたり、マネジメントを任せたい
女性活躍推進策の一環として、女性の特性や感性を生かす商品開発チームや営業チームなどを創設したり、強化したりする企業も。女性中心で編成するので、そのマネジメント自体も女性に任せたい。
そして、最近の傾向として、「フロントオフィス」業務での女性管理職のニーズ増加が見られます。人事総務・経理・広報といったバックオフィス部門はもともと女性管理職も多く活躍していますが、「営業」などフロントサイドの業務での女性リーダー・マネジャーは希少な人材としてニーズが高まっているのです。
近年、内勤で営業活動を行う「インサイドセールス」、受注後に顧客のフォローをする「カスタマーサクセス」といった業務を行う部署を設けたり、専任担当を置いたりする企業も増えています。これらは女性にフィットする職種。現場で働くのは、契約・派遣・パートの女性スタッフが多く、こうしたチームのマネジャーとして営業経験を積んだ女性を求めるケースが多く見られます。
営業としてキャリアを積んできた女性からは、「営業の仕事が好き。けれど、育児中は顧客に合わせた対応が難しく、営業の仕事は続けられそうにない」という悩みも聞こえてきます。そうした女性にマッチするポジションといえるでしょう。
女性の「社外取締役」のニーズが増加
管理職としてキャリアを積んだ女性には、さまざまな可能性が広がります。
今、私のもとには「女性の社外取締役を紹介してほしい」というオーダーが多数寄せられているのです。
大手企業は、国から「女性役員比率の引き上げ」を求められています。また、株主総会などでは、女性役員が不在であることを指摘され、ダイバーシティの観点を問題視されることもあります。
かといって、「仕方なく取り組む」だけではありません。大手企業自身、取締役が男性で固められている中、「女性が入ることで新鮮な空気が送り込まれ、よい意味で緊張感が生まれる」と、プラス効果に期待を寄せています。
それでも、「常勤の女性取締役をそろえるにはまだまだ時間がかかる」と頭を抱えています。なぜなら、その手前の本部長や部長クラスの女性×中間管理職の層がまだまだ薄い。登用するにも相当にストレッチが必要。また、「常勤の取締役となると、男性主体の中ではどうしても遠慮がちになり、議論が活発化しづらい」とのこと。「社外取締役という立場で、遠慮なく率直な意見をぶつけてほしい」と、外部からの招へいに動いているというわけです。
しかし、該当する人材はごくわずか。よって、特定の方にアサインが集中することも。非常に希少価値がある存在であり、ご本人にとっては選択肢が多彩と言えます。
このように、マネジメントを経験した女性たちのキャリアの広がり方を目にしていると、今、昇格・昇進を迷っている人はぜひ一歩を踏み出していただきたいと思うのです。
コロナ禍を機に、自身のワークスタイル、ライフスタイルを見つめ直す人が増えています。「いずれはフリーランスになり、ワークライフバランスを重視して働きたい」「地方に移住して、リモートワークを中心に働きたい」など。「子どもが成長したら、離婚して自由に生きたい」なんて声も聞かれます。
離婚しなくても、夫の収入が激減する可能性もありますし、「人生100年時代」において女性のほうが平均寿命が長い。将来、ライフスタイルを自由に選択できる自分であるためにも、どこかでアクセルをぐっと踏み込んで実績を作り、「稼ぐ力」を付けておくことは大切です。ぜひ「チャレンジ」を意識してみてください。

森本千賀子
morich代表取締役兼All Rounder Agent。リクルートグループで25年近くにわたりエグゼクティブ層中心の転職エージェントとして活躍。2012年、NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。最新刊『マンガでわかる 成功する転職』(池田書店)、『トップコンサルタントが教える 無敵の転職』(新星出版社)ほか、著書多数。
[NIKKEI STYLE キャリア 2020年09月11日 掲載]