
コンサルティング大手のアクセンチュア(東京・港)では札幌市内の拠点での勤務を希望する社員が増えている。9月末時点の札幌勤務者は約200人と、3年前の2倍の水準。就職説明会で札幌勤務に関心を示す学生も多く、まとまった雇用の期待できる業種の受け皿拡大に期待は大きい。
新型コロナウイルスの感染拡大後、同社は原則在宅勤務に切り替えた。「アクセンチュア・イノベーションセンター北海道」(札幌市白石区)に勤務する加賀新マネジャーは平日はオンラインツールで道外の顧客とやりとりし、週末は支笏湖やニセコなどの観光地やリゾート地を巡る。「1時間でスキーに行ける。移動に時間がかかって東京では土日だけでできないことが、北海道ではできる」と満足度は高い。

宮城県出身の加賀氏は北海道に初めて住む「Iターン」組。地方移住の選択肢には出身地の宮城県もあったが、拠点がない。地方で転職となれば給与水準が下がるのも覚悟しなければならず、北海道を希望した。
一方、北海道センター長の浅井憲一氏は北海道出身の「Uターン」。大学院までを北海道で過ごし、東京で15年勤務。子育てを機に北海道に戻った。「やりがいのある仕事を北海道でできる」(浅井氏)。夏には仕事前に朝4時からゴルフをすることもあり「東京ではできない働き方」に満足感は高いという。
アクセンチュアが札幌市に拠点を開設したのは06年。社員の約6割は北海道出身で、新卒の社員も毎年15~20人程度が札幌に来ている。10月中旬に実施した22年卒向けの就活説明会で北海道センターの紹介をしたところ、数百人の学生が興味を示した。新型コロナの流行後は学生の間でも地方への注目が高まる。
札幌にはIT関連の優秀な人材が多く集まり、同社も北海道大学(札幌市)や小樽商科大学(小樽市)をはじめ周辺から積極的に採用してきた。働き方に対する考え方が激変し、地方への移住希望者は「今後増えるのでは」と浅井氏はみる。

内閣府の1~3月の調査によると、首都圏在住者の約半数が地方移住に関心を持っている。マイナビが21年卒の学生を対象に地元就職について調査したところ、北海道では61%の学生が地元就職を希望した。全国の数字の49%と比較しても北海道の地元志向は強い。
一方、地元の就職を諦める理由として「志望する企業がない」などといった声も根強い。採用の受け皿拡大は地元での就職を希望する学生にとっては朗報といえる。
外資系の同社は地方拠点を本社の支店という位置づけではなく、地域の特色を生かして運営するのがモットー。福島県会津若松市の「イノベーションセンター福島」ではITを活用した除雪サービスや市民向けの地域情報提供サイトを作成するなど、同市が推進する「スマートシティ構想」にも参画している。
北海道センターでは札幌市内の産学連携のプロジェクトにも参加しており、札幌の人材交流や技術革新に一役買っている。「顧客は道外が多いが、こうした活動で北海道に貢献したい」(加賀マネジャー)思いは強い。
(久貝翔子)
[日経電子版 2020年10月20日 掲載]