次世代リーダーの転職学

年収1000万円稼ぐ人たちの転職 何が大きく違うのか

年収1000万円以上で転職する人たちは意識の面でも特徴がある。写真はイメージ=PIXTA
年収1000万円以上で転職する人たちは意識の面でも特徴がある。写真はイメージ=PIXTA

年収1000万円――キャリア相談の場でミドル世代の方に希望の年収額をお聞きすると、いわゆる大企業で部長職以上の役割を担われているケースでは、やはりこのラインがひとつの基準になるようです。国税庁が9月に発表した「民間給与実態統計調査(平成29年分)」によると、年収1000万円以上の方は給与所得者全体の4.5%。この層の方の転職活動は、年収1000万円未満の方々と何か違いがあるのでしょうか。いくつかの興味深いデータからひもといてみましょう。

50代会社員の2割が年収1000万円以上

転職サービスの「doda」が調査した「平均年収ランキング2017」で、年収1000万円を超える人の割合を年齢帯別に見ると、

●20代 0.3%
●30代 1.8%
●40代 7.3%
●50代 19.7%

と、年齢に比例して急増しています。

50代ともなると、5人に1人が1000万円以上稼いでいて、この世代の最大多数です。これは年功序列という見方もできますが、実際には、経験年数が増えればスキルが上がり、スキルが上がると成果も大きくなり、成果が大きくなると権限や役職も重くなり、年収が上がる、という構造が大きく影響しているものと思われます。

キャリア相談でお会いするホワイトカラーやエンジニアの方の中には、特に35歳を超えると「できれば年収1000万円以上稼ぎたい」と希望する方が急増する傾向があります。しかし、30代、40代でその希望がかなう方は10%に満たないというのが現状のようです。

とはいえ、モノづくりのように経験値がモノをいう積み上げ型の仕事の割合が徐々に減り、ウェブサービスに代表される、スキルや戦略次第で一気に価値が上がる爆発型の仕事が増えつつある流れの中では、今後、年齢と年収の相関関係は弱くなり、若くても高収入を稼ぎ出す人たちが増えていく可能性は大きいと思われます。

年収1000万円以上の転職理由は?

エン・ジャパンが運営する転職サイト「ミドルの転職」では、35歳以上のユーザーを対象にした調査が多数発表されていますが、年収1000万円以上という切り口での調査結果をご紹介しましょう。

ひとつめが「転職を考えたきっかけ・転職理由」(35歳以上のミドルの「転職理由」調査)。ミドル世代全体の転職理由を集計した結果では、トップ3は、

●第1位 会社の考え・風土が合わない 32%
●第2位 会社の将来に不安がある 28%
●第3位 職場の人間関係がよくない、上司や同僚と合わない 25%

という結果だったそうです。

しかし、年収1000万円以上の方だけを切り出すと、

●第1位 自分の能力を試したいから 29%

と、全体の結果とは全く異質の答えがトップとなっています。

また、年収1000万円以上と1000万円未満のそれぞれを比較して特に差が開いたのは、

●給与に不満 年収1000万円以上8%、1000万円未満26%
●待遇・福利厚生に不満 同8%、同20%
●勤務時間・休日休暇に不満 同5%、同15%

といった、待遇に関連する項目だったそうです。

転職理由が本人にとってポジティブなものか、ネガティブなものかということと、年収(あくまで転職前の年収ですが)の高低には相関関係があると考えられます。

年収1000万円以上の定年後の希望は?

上記と同じ「ミドルの転職」のユーザーアンケート「人生100年時代の働き方」意識調査によると、「"人生100年時代"を見越した上で、いつまで働くことを想定していますか?」という質問に、83%のミドルが「定年後も何らかの形で働き続けたい」と回答したそうです。

次の設問で、「定年後の理想の働き方」を聞いたところ、

●年収1000万円以上 起業・独立をする 46%
●年収1000万円未満 再雇用制度を利用し、現職企業で働き続ける 43%

がそれぞれ最多回答となり、ここでも特徴の違いがくっきりと表れました。

また、「定年後も働き続けるために必要なこと」を聞いた結果では、年収1000万円以上の方の回答は、年収1000万円未満の方々に比べて、

●コネクション・人脈づくり 74%
●スキル向上のために時間とお金と努力を投資 41%
●語学の学習 33%

という回答が目立って高いという結果になっています。

年収が高い人ほど、会社に依存せずに、自分の価値を市場で売っていきたいという志向が強く、また、市場価値を高めるためのネットワークづくりやスキル向上に投資をしていきたいと考える傾向が明らかになっています。

●将来に備えてスキルを磨きたいが、会社での役割を優先すると、なかなか勉強の時間を確保するのが難しい(51歳男性・年収850万円)

●忙しいうちに鍛えておかなければいつまでたっても環境に甘えてしまう。土日は趣味の釣りを休んで、以前からやりたかったコーディング(コンピューターでプログラムを書くこと)の勉強に挑戦しています(53歳男性・年収1200万円)

●定年後に独立するために、税や法律に関する知識を学んでおく必要がある。仕事と家族との時間だけで精いっぱいで、そのための時間が取れていないことが不安(43歳男性・年収590万円)

ほとんどの方が将来に対して不透明感があり、不安を抱いていますが、それに対してどう備えるか、備えるための時間をどうやって作るのかといったところにも、一人ひとりの取り組み方や優先順位の考え方が反映します。

重要なことはわかっていても、緊急度の高いことに邪魔されて動けないとあきらめるのか、重要なことを最優先において、残りの時間を緊急度の高いことに割くというスタイルをとるのか、まずは目の前の時間の使い方から違いが生まれ、広がっていくのかもしれません。

年収の高さだけが働くことの価値を示すものではありません。また、年収の金額が働く満足度を決定づけるものでもありません。しかし、できることなら、自分の市場価値を高め、世の中に必要とされる度合いを増やして、働くことに喜びを見いだしたいと考える方は多いはずです。

何よりもまず、自分自身の仕事と人生を豊かなものにするために。あなた自身の提供価値を高め、自分のキャリアを自律的にコントロールするための時間と環境を、ぜひ工夫を重ねて作りだしていただければと思います。

黒田真行

ルーセントドアーズ代表取締役。日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。2019年、中高年のキャリア相談プラットフォーム「Can Will」開設。著書に『転職に向いている人 転職してはいけない人』、ほか。「Career Release40」 http://lucentdoors.co.jp/cr40/ 「Can Will」 https://canwill.jp/

[NIKKEI STYLE キャリア 2020年11月09日 掲載]

前の記事
次の記事

ピックアップ

注目企業

転職成功アンケートご協力のお願い
日経転職版を通じて転職が決まった方に、アンケートのご協力をお願いいたします。