次世代リーダーの転職学

ジョブ型雇用はサラリーマンの働き方をどう変えるのか

ミドル世代専門の転職コンサルタント 黒田真行

企業に属しながら「腕を貸す」ような働き方も有望に(写真はイメージ =PIXTA)
企業に属しながら「腕を貸す」ような働き方も有望に(写真はイメージ =PIXTA)

新型コロナウイルス感染症の影響で、この春以降、急激に広がらざるを得なくなったリモートワークやセルフマネジメント。世界中の働き方に大きな影響を与えていますが、新卒一括採用や総合職での雇用が一般的な日本においては、とりわけその変化の幅が大きくなっています。コロナ禍をきっかけに、いわゆるメンバーシップ型雇用から、ジョブ型雇用への切り替えを急ぐ企業も急増しています。この社会的なトレンドの変化は、ビジネスパーソン一人一人の働き方にどのような影響を与えるのか。今回はそこに焦点を当ててみたいと思います。

広がる「ジョブ型雇用」の実態は?

2020年7月31日、雇用の激震を告げるニュースが駆け巡りました。KDDIが約1万3千人の正社員に、職務内容を明確にして成果で処遇する「ジョブ型雇用」を導入すると発表。日本を代表する情報通信企業が、革新的な変化といえる働き方の変化を宣言したのです。

具体的には職務定義書で社員の職務を明示し、その達成度合いなどをみて、年功にとらわれない評価で賃金に反映させ、有能な専門人材を柔軟に活用していこうという内容。一律20万円台だった新卒の初任給も、大学での研究分野やインターンシップの評価をもとに、最大で2倍以上とするケースも想定するという思い切った転換を実施する計画です。

この決断の背景には、次世代通信規格「5G」などの技術革新で事業環境が劇的に変化することがあるとみられています。しかし、事業環境の変化は通信業界だけのものではありません。電気自動車、人工知能(AI)、データサイエンス、クラウドサービスなどの技術の進化が加速する中、あらゆる日本の大手企業も同じ道をたどっていく可能性を示唆しています。

テレワーク、リモートワークが急速な広がりを見せている中、注目されている「ジョブ型雇用」ですが、具体的にはどのような雇用の形を指すのでしょうか。比較対象として使われる日本式の「メンバーシップ型雇用」と何が違うのでしょうか。

従来のメンバーシップ型雇用は、一言で言えば新卒一括採用で総合的なスキルを求められる方式、総合職採用を指します。それとは逆に、ジョブ型雇用は仕事の範囲を明確にすることで「より専門性を高める」方向性の採用の形を指します。

雇用に関わる人事の世界では、特にリーマン・ショック以降の過去10年は「日本も欧米で主流のジョブ型雇用を取り入れるべきだ」という話はことあるごとに議論されてきました。今回、新型コロナウイルス感染症のまん延により、働き方改革の旗だけでは遅々として進まなかったリモートワークが急速に普及し、それに合わせるように「ジョブ型雇用」の導入の議論も、後付け的に増加しています。

「ジョブ型」「メンバーシップ型」、それぞれの課題

メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用に移行すべきだという議論の背景には、「メンバーシップ型は終身雇用を背景にしている制度であるため、長期勤続者が多く、仕事の範囲も幅広く、属人的な業務が多い」という課題が挙げられていました。会社への帰属意識は高くなるものの、個人から見たときには、転職するリスクが高く、優秀な人材でも流動化しづらい社会を生む結果となっていました。

一方で、人材の柔軟な流動を促すと言われているのがジョブ型雇用。「仕事内容に必要なスキルがあるかどうか」というものさしで人材を流動化できるので、実務に即した基準で雇用が成立する合理的な形態といえます。

会社ごとの流儀や仕事の進め方に依存するのではなく、自立して学習していくことが求められる点や、セルフマネジメントが基本となるということから考えると、リモートワークが当たり前になる社会には適合した形だと思われます。

労働力の移動を前提にしたジョブ型雇用には、課題も指摘されています。たとえば、社員を特定の職務に限定して採用する以上、何らかの事情でその職務が不要になった場合、最終的には解雇せざるを得ない性質を持っていることで、「解雇権濫用法理」で労働者の権利が保障されている日本の現状とのギャップを指摘する声があります。解雇を当たり前にする社会を生み出すのではないかというリスクを課題と指摘する声もあります。

しかし、メンバーシップ型雇用にも限界があります。メンバーシップ型雇用は、「新卒一括採用」「年功序列」といった雇用慣行とセットで定着してきました。新卒一括採用型は職種を限定せずに総合職として採用する場合も多く、職種や仕事内容をローテーションさせて幹部候補人材を見極め、会社を長く支えていく人材を育てていく方針です。

会社へのロイヤルティー(忠誠心)などのメリットもあるものの、「専門職の人材が育ちにくい」といったデメリットもあるため、IT(情報技術)化の進む現代にそぐわない部分が課題とされてきました。平成の30年で製造業を中心とした日本の上場企業の時価総額が、GAFA(アルファベット、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)と呼ばれる4社の時価総額に抜かれるという存在感ダウンの要因ともいわれてきました。

ジョブ型雇用時代にどう向き合うべきか?

この環境変化を受けて、ビジネスパーソンはどう向き合えばいいのでしょうか。時代の揺り戻しはないということも踏まえて、私はこの状況を基本的に前向きな変化ではないかととらえています。少なくともポジティブに受けとめたほうが得策であると思います。

最も大きな理由は、メンバーシップ型雇用のジョブローテーションから解放されて、会社に振り回されないキャリアが積める可能性が高まることにあります。

総合職という名のもとに、職種や勤務地など、会社の都合で変えられてしまうリスク(不本意な人事異動によって家族を犠牲にしてきた人や転職を余儀なくされてきた人も多いのではないかと考えています)、また、なんでも屋ではあるが、自分が何屋さんなのかを明確に言えないキャリアのリスクから解放されるメリットは、想像以上に大きいのではないかと思います。

逆に言えば、自分の意思を持つことが必要になりますし、自立性を持つことが前提となります。しかし、自らのキャリアのイニシアチブを自分の手に取り戻すことができる価値は、とても魅力的なことだと思います。

会社員という立場でありながら、会社を「顧客」として、自らのプロフェッショナルスキルを提供し、その対価としての報酬を得る個人事業主に近づくことになります。球団とプロ野球選手の関係に近いですね。

個人とはいえ、一つの事業主に近づくわけですから、「株式会社自分」という法人格で、中長期の経営戦略を描いておいたほうがいいと思います。自社の競争優位性、自社が目指すビジョン、顧客への提供価値。企業と同じように、これらの戦略を描き切れれば、自らの付加価値を高める土台固めができるようになります。

この観点を参考にして、自分の強みを整理し、把握したうえで、ジョブ型雇用がいつやってきても戦えるよう、今後のキャリア戦略構築を進めていただければと思います。

黒田真行

ルーセントドアーズ代表取締役。日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。2019年、中高年のキャリア相談プラットフォーム「Can Will」開設。著書に『転職に向いている人 転職してはいけない人』、ほか。「Career Release40」 http://lucentdoors.co.jp/cr40/ 「Can Will」 https://canwill.jp/

[NIKKEI STYLE 出世ナビ 2020年08月14日 掲載]

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