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雇用の実態、悪化の恐れ 就活で「氷河期」再来も ~景気映す経済指標

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景気の動向を表す経済指標について親子で話が盛り上がる筧家のダイニングに、恵が浮かない顔でやってきました。「同業の知人は仕事が減ったままなのでアルバイトを探してるんだって。うちの会社は大丈夫かな」。お茶を飲んでいた幸子が表情を引き締めます。

筧(かけい)家の家族構成
筧幸子(48)良男の妻。ファイナンシャルプランナーの資格を持つ。
筧良男(52)機械メーカー勤務。家計や資産運用は基本的に妻任せ。
筧恵(25)娘。旅行会社に勤める社会人3年目。
筧満(15)息子。投資を勉強しながらジュニアNISAで運用中。

幸子 新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が出た4月から、失業者が増えているわ。総務省の労働力調査によれば、失業者は5月から3カ月連続で前年同月より20%以上も増えた。5月と7月の完全失業率は2.9%と、2017年5月以来の高さになったの。

 これからさらに失業が深刻になるのかな。

幸子 ニッセイ基礎研究所経済調査部長の斎藤太郎さんは「21年度末には4%くらいまで失業率が上がる可能性がある」とみているわ。企業の資金繰りを支援したり雇用調整助成金を拡充したりして、今は政策で失業を抑え込んでいるけれど、これから廃業やリストラが増える恐れがあるそうよ。

良男 08年のリーマン・ショックの時と比べると低いようだな。最悪だった09年には日本の失業率が5.5%に上がった記憶がある。

幸子 当時はもともと失業率が4%程度だった。今回、コロナ前の失業率は2%台前半だったからリーマン・ショック時より変化を強く感じるかもしれない。失業率は過去10年以上、下落傾向だった。景気の回復に加え、現役世代の人口が減り全体に人手不足だったから。斎藤さんは日銀短観の雇用人員判断DIに注目するわ。アンケート調査で「人手が過剰」と回答した企業の割合から「人手不足」と回答した割合を引いたものよ。強い人手不足感が続いていたのに、コロナ下では急激に過剰の方向に向かっている。

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良男 それでも、世界的にみれば日本の失業率は低い。米国は4月に15%近くになったし、8月も8.4%だったそうだ。

幸子 米国と日本では失業の重みが違うと考えた方がいい。米国ではコロナ前に3%台まで失業率が下がっていたけれど、もともと企業の業績が悪化すればすぐ解雇される半面、中途採用が活発。つまり転職の途中の一時的な失業が多いの。コロナ禍を受けて失業保険を「大盤振る舞い」し、給料より多い額をもらえる状態だったことも高い失業率の背景と言われるわ。

 日本では簡単には解雇できないと聞くね。

幸子 ただ、仕事は減っている。厚生労働省の毎月勤労統計で1年前にも調査対象になっていた企業の集計結果をみると、3月から所定外労働時間は前年同月より10%以上の減少が続き、5月には34%減った。現金給与総額も4月から前年同月より減っている。解雇が厳しく規制される日本では、まず企業の中で仕事を減らしたり賃金を抑えたりする。雇用が守られても暮らしは厳しくなるし、職を失えば再就職は簡単ではないわ。

 中途採用でなく大学や高校の新卒採用が中心だからか。

幸子 そこで気になるのは今後の就活。厚労省によれば今春に就職するはずだったのに内定を取り消された学生が昨年の5倍に増えたそうよ。斎藤さんは「日本では解雇しにくい分、新卒採用を絞る傾向が強く、就活が"コロナ氷河期"になる恐れがある」と指摘している。

 就職できずに諦める人が増えると、失業率がさらに上がるの?

幸子 実は、統計上の失業率は、働くことを諦める人が増えれば下がる方向に向かうの。「完全失業率」と言って、月末の1週間に仕事を探していた失業者が、労働力人口に対してどのくらいの割合かを計算するものだからよ。諦めた人は非労働力人口になる。本当は働きたい人や、何かの事情で働けないけれど状況が許せば働きたい人、できれば今よりもっと働きたい人は完全失業率には現れない。

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良男 失業率が現実を映していないというわけか。

幸子 実態をつかもうと18年から3カ月ごとに総務省が公表しているのが、潜在的な労働力や、もっと働きたい人を計算に含める「未活用労働指標」。最も広く"失業"をとらえた「未活用労働指標4」は20年4~6月期、7.7%に上昇した。SMBC日興証券チーフマーケットエコノミストの丸山義正さんは「コロナ下では未活用労働指標が完全失業率より大きく上昇している。実質的な失業者が多いことを示す」と話している。

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 今後がとても心配。

幸子 丸山さんは、これから徐々に景気は回復していくと考えているわ。ただ、日本ではボーナスや所定内給与は過去の企業業績を基に決まるのが一般的。今、経営が厳しい企業では、今夏のボーナスは減らなくても、冬のボーナスや来年度の給料は減るかもしれない。政府の大幅な経営支援策が終われば、抑えられていた廃業やリストラが本格化する恐れもある。雇用関連の経済指標は景気に遅れて動くので、最も厳しくなるのはこれからと考えた方がいい。

良男 逆に景気がよくなれば、雇用もいずれ改善するのか。

幸子 そうね。失業率は景気を真っ先に映す指標ではないけれど、政策の評価に直結するので、世界中で政治的に注目されているわ。日本も国内総生産(GDP)の5割以上を消費が占める。雇用や賃金を安定し、暮らしを守るのは最優先の課題よ。有効な景気対策が打たれるかどうか、注目したいわね。

 

■市場揺らす「雇用統計の夜」

みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト 唐鎌大輔さん
 日本時間で毎月第1金曜日の夜は「雇用統計ナイト」と呼ばれます。米国の雇用統計が発表され、金融市場が大きく動くこともあります。市場が注目するのは前月の「非農業部門雇用者数」。8月は前月比137万1000人増でした。失業率も同時に公表されますが、雇用者数がより景気の実態を表していると考える人が多くいます。日本では米国よりほぼ1カ月遅れで発表します。
 ただ、米雇用統計は発表が早い分、過去の数字の改訂が頻繁にあり幅も大きいです。最初の公表時は増加した雇用者数が、改訂したら減っていたということもよくあります。経済の実態をつかむには、大幅改訂は好ましくありません。今後、注目したいのは、安定して雇用者数が増えるか。雇用統計が政権の評価につながるのは米国も同じです。

(聞き手は大賀智子)

 

[日経電子版 2020年9月24日掲載]

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